第34話

ど、どうしよう・・・!


次の展開が読めなくて私は、ますます動揺してしまいました。


ビールを手に持ったまま。


その手から、先輩が、そっとビールをはずして、テーブルの上に置いてくれました。



「兄貴のこと、話してなくて、驚いたよな?」


「あ・・・はい・・・」


お兄さんがいきなりいなくなって、抱きしめられてしまった私は、そのことより、

今のこの状況に、驚いていました。



「大学入って1年が終わろうとした時、おやじに云ったんだ、俺、映画監督目指すって」


「映画監督?ってすごいじゃないですか!」


「でも、普通に考えたら、夢物語だしさ

大学に行く意味だって無いだろうから、辞めようかなーって思ってたら、兄貴が・・・

兄貴の名前は、美しい夜 って書いて美夜

(よしや)って云うんだけどさ、兄貴が、せっかく受験して入った大学なんだから、もったいないことするんじゃない!とか怒りだして、で、さっきも話したけど、ちょうど彼女と別れた時だったから、同棲解消して、部屋も空いてるし、おやじが勘当したなら、うちに来い!って云ってくれて、

学費は、奨学金でなんとかしてて、で、俺が、必死でバイトしてるのは、大学在籍中に、有名な映画のコンテストで入賞する映画づくりのためだったりする」


先輩が、自分のことをこんなに詳しく語ってくれたのは、初めてでした。


素敵な夢を語ってくれて、私は、とても嬉しくなりました。


同時に抱きしめられている、この状態に居心地の良さも感じていました。



なんなんだろう・・・


多分、先輩と私を隔てる壁みたいなものが


ひとつ崩れて、それで安心したのかもしれない・・・


そう思いました。

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