第31話

「じゃあ、行くか」



そう云って、先輩は、普通に手を繋いできました。



もうね、何度もデートはしてるんですよ!


でも、慣れない。


慣れるはずがないんです。


繋いだ手から伝わる先輩の体温が、夏の日差しよりも、ずっと暑くて、私の心臓はドキドキしっぱなしでした。



はじめて付き合う人というわけでもないのに。


でも、初めて、本気で好きになった人。


だから、こんなに緊張するのかな。




「あの、とりあえず、何かお土産でもって思ったんですけど、さすがに昼間っからビールとかっていうのは無いですよね?」



「ビール?いいんじゃない?」



「あ、でも先輩は、日本酒でしたよね?」



「すでにチェック済みなんだな」



あの、いつも無表情な先輩が、そう云って笑顔を浮かべているのは、今日の天気がいいせいでしょうか?


それとも、私と一緒にいるから?



なんて図々しいことを考えたくなるほど、先輩の笑顔は真夏の太陽よりも眩しかったです。



思わず、じーっとみとれていたら。



「何?」



と、私を見て微笑んでます!


私を見て微笑むなんて!!


なんだか嬉しすぎる!




「ありがとうございます!」



と思わず、会話にならない日本語を口にしてしまいました。




「また、意味不明なことを・・・」



「あの、違うんですよ!先輩の今の笑顔がすごく良くて、いいものを拝ませてもらったなぁって思って」



と、私は必死に弁解をしました。



先輩は、そんな私の様子を見て、また笑顔を作っていました。



もう、ほとんどバカですね、私。



でも、今日が、いつもより緊張しているのには、わけがあるんです。




というのも、先輩の家に行くのはいいんですけど・・・。



いや、いいのかな?



行きたかったんですけど・・・



先輩って、どうやら実家暮らしじゃないようなんですよ。



香山菜月 一世一代の大ピンチ!



とはいかないと思いますけど、一人暮らしの男子の家にあがったことのない私としては、すごく緊張するというか・・・。



でも、大好きな先輩だし!


先輩に限って・・・・・



って私、何考えているんだろう!



きっと、こんな風にああでもない、こうでもないって考えてる私を先輩は、また、仕方のない奴だなとか思って見てるんだろうな。

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