第9話

そのあと


講義が無かったのは幸いでした



ぽつんと一人取り残されて


普通なら


寂しいな


とか思うんでしょうけど




誰もいない教室に


再び戻って


さっき、先輩の横だった席に


座りなおしました




1時間以上前のことなのに


ついさっきのことのように思えます




会話しちゃった




あの無口な先輩と・・・


何度も夢じゃないかと


思ってしまいましたが



ここにある先輩のノートが


現実であるということを


示してくれます



ノートの表紙には


講義名と先輩の名前が



それを見るだけで心臓がバクバクいっています



一週間と言わず、ずっと借りていたい



なんて馬鹿な衝動にかられたりもしました



先輩の文字が羅列されているはずのノート


隣にいたのに一度も見れなかった先輩の文字



ノートをゆっくりと開こうとした私だったのですが


手が震えてしまいます




ノートを開くまでにずいぶん時間がかかりました



開いてみるとそこには


きちんと分かりやすくまとまった講義内容が


当たり前だけど記されていました



男の人だから、結構ごちゃごちゃした感じにまとまってるのかな


と勝手にイメージしていたので


意外でした




先輩の字は、角ばっていて、達筆?


なんて思わせる文字


私の書く丸文字とは大違い




なんだか先輩らしいな


そう思いながら、ページをめくります



ただただ眺めているだけで


しあわせな気持ちになっている私




はたから見たら、馬鹿な女なのかもしれません




でも、憧れの先輩の直筆ノートは


私にとっては、普通の人にとっての芸能人のサイン並みの威力をもっていたのです



いえ、それ以上に



でも、まさかこのノートを譲ってもらうわけにもいかないし・・・



多分、こんなことを書いたら


馬鹿だといわれるのは承知なんですけど


思わず・・・・


先輩のノートのコピーをとらせてもらいました


先輩にはナイショで



で、先輩に会えない日に、こっそりそのコピー用紙を眺めては



しあわせに浸る



というのも私の日課になっていました




それくらい憧れの人なんです


吉野先輩は私にとって




だから


芸能人よりも遠くに感じてしまうくらいの

先輩に



告白なんてする勇気



今の私にはないんです

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