第8話

講義終了のチャイムが鳴り


がやがやと教室を去っていく学生たち


隣の席、後ろの席


どんどん生徒の姿が減っていきます




先輩も教科書を揃えて立ち上がりました


私は、まだ頭がぼーっとしていて


動けずにいました




「移動しねーの?」


そんな私の姿に気づいて先輩が声をかけてきました



「すみません、なんだかぼーっとしていて」


慌てて教科書と何も記されていないノートを片付ける私



「そうだよな、お前、全然ノートとってなかったし」



み・・・見られてたんだ・・・



絶対、不真面目な子だとか思われたよね

普段は、ちゃんとノートもとってるんだけどな



でも、講義に集中するどころじゃなかったんだから仕方ないんです

先輩が気になって仕方なかったから



なんて言えるはずもなく


苦笑いで誤魔化しました



「何か考えごとでもあったんだろーけど」



はい、ずっと先輩のことばかり考えてました




心の中で思っていても


当の本人にさすがに言えるはずもなく



「駄目ですよねー 学生の本業を忘れるなんて」


本当は、こうやって話しているだけでも、

心臓のドキドキが止まってないんですけど



私は、普通に話そうと必死でした



「これ、貸してやるよ」


そう言って、先輩が差し出したのは、今の講義で先輩がとっていたノートでした



「え?」



「この教授、テストの範囲広いし、細かいから一度でもノートとりこぼしたら最悪・・・って知ってるわけないか」


「噂に聞いたことは、ありますけど」


「だから、ノート貸してやるよ、来週の講義までに返してくれたらいいから」



「あの、いいんですか?私なんかが借りちゃって」



「あぁ、じゃ次の講義あるから」


そう言うと先輩は、教室を去って行きました



気がつくと、教室内には誰もいません


先輩の後を追おうとして、私も教室を出てみたんですが



私の目の届く範囲には、先輩の姿はありませんでした



取り残された、私



先輩から借りたノート



先輩のノート



先輩のノートです


まさか、憧れの先輩のノートが私の手元にあるなんて



夢みたい



ってこういうことを言うんでしょうか?

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