接近

第10話

『次の講義の時でいいから』


と言われて借りていたノート


返そうと思えば返せたのかもしれませんが


いつものたまり場で、それから一週間くらい


先輩と顔を合わすこともなく過ぎてしまいました




毎日、顔を出しているのは


吉野先輩に会うためっていうのが最大の理由の私にとっては


悲しいことでした



学部が違うし、校内も広いうえ、生徒数も多い、この学校で


例え、素敵男子でオーラが違う


吉野先輩と言えど


大勢の学生たちの中から


探し出すのは難しいんですからね



同じく2年でサークル仲間の田端君に声をかけました


彼は確か、先輩と同じ学部だったはずなので、何か知ってるのかもしれない



と思ったので




一週間も顔を合わさないなんて


もしかして体調でも崩してるのかな


風邪でもひいて寝込んでいるとか



勝手に色々考えていた私


「あの、吉野先輩って、最近見かけないよね?」


「なんか、休んでるみたいだよ」


「え?体調悪いとかで?」


「いや、あの人、またバイト始めたとかって、誰かが言ってたな」


「そうなんだ」


「なんか用事でもあったとか?」


「講義のノート借りてて、明日がその講義の日だから、返さなきゃって思ってて」



「え?あの人がノートを?」


「うん、何かおかしい?」


「絶対、親切心とかで貸すような人に見えないからさ」




田端君の言葉を聞いて私は否定できませんでした


借りた私ですら、先輩の行動は想像の範囲を超えていたので



しかも、同じサークルとはいえど、話した回数も数えるほどです



気軽にノートの貸し借りをする間柄になるなんて思いもしなかったので



明日は、あの一度でもノートをとり損ねたら、テストで合格するのも難しい教授の講義がある日



教室に行けば、きっと会えるだろう



そう思った私は、次の日が来るのを待ちました



そして、当日、その講義が始まる、ずいぶん前


友人を付き合わせるのも悪いなと思い

一人早めに、あの教室に向かうことにしました

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る