夢のような時間

第6話

今日も大学に来ています


午後からも講義をとっていたのですが


お昼休みをのんびりしていたのが


大間違い


午後の講義は、校舎内でも一番遠い場所だったんです


その上、教室も狭くって


もっと注意しておくべきでした


この講義をとっているのは


私の友人では一人しかいないのですが


その子は今日は、出席できなかったので


一人で教室に向かいました



狭い教室です


ギリギリでついた私は


席を探しましたが


空いているのは、教授の真正面の


最前列だけ



しかも、この教授、講義中に


学生の私たちに質問を投げかけてくるということで


有名な教授でした



できれば前は避けたいんだけど


仕方ないかな・・・



そう思い、仕方なく前方に向かおうとすると


「香山」


と私を呼ぶ声がしました


あれ、この声って・・・


もしかして


振り向くとそこには


憧れの吉野先輩の姿があるじゃないですか



びっくりして


思わず、教科書とノートを落としてしまいました



「え?なんで、どうしてここに吉野先輩が?」


私は、驚きを隠せないまま先輩に尋ねました


「しょーがねーだろ、留年したんだから」


そう言いながら、先輩は立ちすくんだままの私の教科書やノートを拾ってくれました



あ・・・


なんか失礼なこと言っちゃったかも




そう思い、拾った教科書達を渡してくれた先輩に


「すみません、気に障るようなことを言ってしまって」


と謝ると


「別に」


とそっけない返事が返ってきました



教科書を受け取りながらも

頭の中は先輩でいっぱいになっていました



唯一の接点と思っていた、あのたまり場以外に、こうして先輩と一緒に過ごせる時間があるなんて



そう思うと最前列のあの席に座ることも怖くは無いです


教科書達を受け取って前の席に向かおうとしたところ


「おい」


と、また先輩に呼び止められました


「ここ、空いてるぞ」


あまりに人が多すぎたのと

吉野先輩に出会えた喜びが大きすぎて

私は、吉野先輩の横の空席を見逃していました



「え?いいんですか?」



「良くなきゃ声なんてかけねーよ」



そっけない言葉遣いが先輩らしい


そう思いました

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