第73話

ツン、と甘い匂いが香った。


「じゃあ、これなら見えますか?」


今度は彼女の顔がハッキリと見えた。


彼女が背伸びをして俺の顔に自分の顔を近づけたのだ。


茶髪がかった黒髪は綺麗に束ねられ、少し猫っぽい目をした綺麗な女の子だった。


「あ。はい…」


「ごめんなさい。謝る時はちゃんと目を合わせたほうがいいですよね」


「いえ、本当に気にしないでください」


そう言って彼女の手元にある眼鏡を受け取った。


なんだか彼女を見ているとソワソワして落ち着かない。

早くこの場を立ち去りたかった。


「こちらこそごめん。あと、もう大丈夫だから」


「あの。もしよかったら…」


そう言って彼女はポケットに入っているチケットをくれた。

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