第62話

反射的に扉の影に隠れながらも耳は教室の中に向いていた。


なんで、どうして、

なんで玲唯が。


別に抱きしめているわけではない。


ただ、その手を詩織ちゃんの背中に回して慰めているんだと思う。


けど、見る人が見れば抱きしめていると思ってしまう。


待って?

詩織ちゃん、彼氏いるよね。


ーまさか、別れたの?


詩織ちゃんの泣いている声が小さくなる。


違う、

私の心臓がうるさくなっているのだ。


「大丈夫だって、詩織」


「…喧嘩…するつもりなんて…なかった…」


「大丈夫。春樹先輩だって分かってるって」


「怒ったまま…帰ったら…また…会えなく…なる!」


どうやら詩織ちゃんは先輩と喧嘩をしたらしい。


でも、別に玲唯に言わなくてよくない?


なんで玲唯なの。


ずるいよ、詩織ちゃん。


玲唯の気持ち、知ってるでしょ?


「あれ?楓まだいたの?」


「里奈?!」


その声は2人の耳にも通り、「楓?」と玲唯が言いながらこちらに歩み寄ってきた。

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