第53話

「ま、まさかそんなわけ…」


「そうなんですか?だっていつも兄さんは楓さんの話をしますよ」


「それ、言っていいやつかな…」


変なことを吹聴していないだろうかと心配になる。


「てっきり、楓さんが付き合ってると思ってたのに」


「ご期待に添えずごめんね」


「いえ…」


「ってかなんでそんなこと?」


「だって助かるじゃないですか?」


「え?」


「ライバルは1人でも減った方が楽ですよね?」


そう言って目線は紅羽に向かっている。


そんな紅羽は玲唯とおしゃべりに夢中。


「あーそういうこと」


「玲唯さんに好きな人いるから諦めるって言ったのに。今度は別な人の名前をあげてきて…気が気じゃないです」


「わかるよ、その気持ち」


「楓さん、兄さんのこと好きですよね?」


「…ただの片想いだよ」


「辛いだけの片想いは嫌です」


海唯くんはまっすぐ紅羽を見る。


「俺もわかってるんです。ちゃんと気持ちを伝えなきゃって。でも、勇気が出ないんです…。【幼馴染】だから、いつか気付いてくれるかもって思って」


「ちゃんと伝えなきゃ駄目だよ?」


「え?」


「幼馴染は幼馴染でしかないからね」


何かを察した海唯くんの瞳が揺れた。


「俺、がんばります」


「うん、がんばって」


そういうと海唯くんは私の隣をはなれ、紅羽に話しかけに行った。


ー俺、紅羽ときたから紅羽とまわりたいー


そんな声が聞こえた。


面を食らったような紅羽の顔に笑いそうになる。


けれど、「当たり前でしょ?海唯ときたんだから一緒に行くに決まってるじゃん」と頬を少し染めて返事をした。


ー偉いなぁ…。


一生懸命な海唯くんに感心する。

私は、何も動いていないし、気持ちも伝えようとしない。


「がんばって」と伝えた私は何も頑張っていなかった。

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