第87話
「来たか、雫」
「おはようございます、雫さん」
老いた夫婦が目の前に映る。
本当にこの2人から生まれたのかと自ら疑問に思うほど、
忌々しいホワイトベージュの色が、この日本家屋ではとても目立つ。
「ご要件はなんでしょう。
俺はこれから学校があります、手短に済ませて下さい」
用意された食事には手を付けない。
誰も食べていないからという理由もあるが、食事をする気にはならない。
「…最近、霜楓で大きな争いがあったそうだな。
相手は綾瀬だったと聞いたが、お前は何をしたんだ」
「貴方に何の関係があるのでしょう。別段俺が怪我をした訳でもない。
この家の秘密が明かされた訳でもないでしょう。何かまだ問題が?」
あくまで俺と彼は対等。
その姿勢を崩さない。
一度でもそれを崩せば俺はこの男に負けるのだろう。
視線を外す事なく見つめていると、相手の方が根負けた。
「…まぁ、良い。
我が家に迷惑が掛かる事がない様にしろ」
「勿論、気を遣います。
それでは俺は登校するので失礼します」
直ぐにその場を去ろうとしたが、不意に違和感を感じて振り返る。
「詩羽…?」
「いかないで、兄様…」
我儘を言うのは詩羽にしては珍しい。
俺は少し考えて、腰を下げた。
「…じゃあ、一緒においで」
人生で初めて、妹の手を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます