Teufelsgeflüster

第86話

「……いまの、なに」

その疑問に答えられるのは、自分しか居ない。

分かっているから、それ以上言わない。

「…生徒会室で寝るか」

人が近付く気配がして、息を潜める。

見知った気配だと判断して、寝台から起き上がった。

「雫様、お目覚めですか」

部屋の外から、愛流の声が聞こえる。

「なに?」

「旦那様がお呼びでです。

 恐らく大奥様と奥様、詩羽(しう)様も居らしているでしょう」

「…すぐ行くって言っておいて。

 あとこんな時間に呼び出すなって、愚痴こぼしとけ」

のろりと寝台から降りながら呟く。

「畏まりました、では10分後にお迎え致します」

「分かった」

話の内容は既に見えている。

それなりの回答を考えながら、俺は着替えを済ませ愛流を待った。


気が遠くなる様な気がする廊下を進む。

日本家屋特有の中庭に視線をやり、直ぐに逸らした。

「兄様」

逸らした先に居たのは、幼い少女だった。

「詩羽、何故ここに居る?」

「父様から、兄様を迎えに行けと言われました」

「…無視しても良かった。

 それくらい、お前にも出来ただろうに」

自分と同じホワイトベージュの瞳が揺れる。

「……ごめんなさい」

「もう良いよ、遅れると面倒だ。

 来るならついておいで、置いていくよ」

詩羽の隣を通り過ぎると、彼女は小鳥が親鳥について歩く様についてくる。

それを愛流が微笑ましいと呟きながら見るが、理解出来なかった。

詩羽が愛流を見る瞳が輝いているのは知っていた。

愛流になら詩羽をやってもいいと考えながら、部屋の襖を開けた。

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