第83話

「確かに『ミユ』は当時からお前達が手に出来る存在じゃなかった。

 そもそも彼女が他人のものだったから、お前は出逢う事が出来たんだ」

「知ってる、知ってるさ!『ミユ』がレンさんのものだって事は!!

 でも、でも『ミユ』はレンさん相手だからと俺達は諦めたのに、それなのに」

稜が言おうとしている言葉は容易に予想出来た。

やはり、といった感想しか出てこなかった。

「『ミユ』はレンさん諸共俺達『柘榴』を捨てたんだ!!」

「…ならお前も捨てれば良かった。『ミユ』が『柘榴』を捨ててもう5年だ。

 切り替える時間は、いくらでもあった筈。いい加減、進めよ」

「出来るもんか!!俺達は、俺は、『ミユ』さえ居れば良かったのに!

 『ミユ』にもう一度逢いたい…!その想いだけで俺は今日まで生きてきた!」

これは、俺が受け止めなければならない激情。

『ミユ』をこの世に解き放ってしまった人間の罪と罰だ。

「落ち着け、稜」

「黙れ、黙れ!だからお前の情報が必要なんだ。

 寄越せよ…『ミユ』を、『ミユ』の情報を」

胸倉を掴み掛かられても、俺は冷静でいた。

その手を握り、稜の瞳を見つめ返した。

以前と変わらず、稜の手は酷く冷たいままだった。

「…お前を、苦しめたくはない。この情報はお前のためにもなる。

 が、お前を苦しめる結果にもなる。だから落ち着け」

痛みで我に返らせようと、俺は握った稜の手を捻り上げた。

「『ミユ』はお前達にとって、天使の様な存在だったんだろうな。

 でも同時に、人を簡単に誘惑して、簡単に捨てる残酷な女だっただろ?」

「…知ってる。そうだよ…『ミユ』はそういう女だった。

 それでも、どうしてか、愛さずにはいられなかった」

苦しげに漏れる声に、俺は溜め息を吐いた。

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