第80話
「さっきの話、聞いてたか」
『…話?あぁ、巡のことね…。
今それどころじゃない、そっちに任せる』
雑な会話でインカムの切れた音がする。
「…まさか、もう柊月 稜に会ったのか?」
「それ良いのか?情報の使いようは任せたとはいえ…」
深刻そうな俺の言葉に凌駕が振り返る。
「前見ろ凌駕!!」
振り返ったその瞬間、気配もなく人影が凌駕を襲った。
◇◆◇◆◇◆
「なんでお前が『柘榴』に居るんだよ…!?」
「お前だなんて酷い呼び方ね。
あんなに母さん大好きって言ってくれてたのに」
朗らかに笑う目の前の女に、嫌悪感しか浮かばない。
「自ら捨てた割によく言うよ。
俺はもう…いや、ずっと前からお前が嫌いだ」
俺の実の母で、一時は雄大の義理の母になった女。
どうして『柘榴』に居るのかも、今どうして戻ってきたのかも分からない。
でも限りなく、限りなく嫌な予感がする。
「どうして『柘榴』に居る。俺の質問に答えろ。
答えないなら意識を奪って後でじっくり尋問でもして吐かせる」
「怖い子…誰がそんな子に育てたのかしら。
あの人達よね…許せないわ。いいえ、もとより許さないわ」
「…人の話聞いてる?子どもの話も聞けないなんでどこのクソ親だよ。
あぁ、クソ親だったね。俺が子供の頃からずっと」
俺の女嫌いの根源のこの女。
ずっと俺の頭の中では警報が鳴っている。
それでも、雄大は呼ばない。
雄大も、自分のやることをやってる。
なにより、俺みたいに雄大をこの女に傷付けられたくない。
大切な存在だから、もう迷わない。
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