第76話

「…で、具体的には何の用で来たの?」

「『柘榴』の頭が今誰か知ってるだろう。

 稜が今になって『ミユ』捜索に乗り出した」

レンくんの言葉に一瞬息が止まる。

「え…『ミユ』って空想の存在じゃなかったんだ」

「なんだ、霧亜は知らなかったのか。まぁ、良い。

 確かに『ミユ』は存在する。がその存在を知る者は少ない」

「稜は『ミユ』と関わりのある『柘榴』の数少ない人間だけど…

 まさか再び連れ戻す気なのかな、もしそうなら止めないとダメだよね」

俺と霧亜はそう思いレンくんを見る。

「その必要はない。既に『翡翠』が動き出している。

 そこには雫も居る。稜を説得することは容易だろうな」

『翡翠』

そのたったひとつの単語は、俺の動揺を誘うには充分だった。

『翡翠』は嘗て俺が居た。

嘗てというか、ほんの半年前くらいの話だ。

俺は事情があり、高校は疎か、あの地域すら離れなければならなかった。

何も言わずに高校を中退して、そのままアイツらとも疎遠になった。

自分の行動を後悔したつもりはないが、

斎達には罪悪感しか残っていない。

「…それって、もしかして」

「あぁ、お前の考えている通りだ。『柘榴』と『翡翠』

 どちらが勝とうが関係なく、お前のことがアイツらにバレるだろうよ」

「っ…やっぱり、そうなんだ」

隣に座る霧亜は思わずといった様に俺の腕を掴んだ。

「…大丈夫、ありがと霧亜」

「本当…?」

「俺の前でイチャつくな、後にしろ」

呆れた様な声で言うレンくんに思わず苦笑いした。

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