第73話

「良かったな」

「…あぁ。本当にあの人はお前に従順だな」

斎の疑問は尤もだった。

千咲都 愛流の本来の性格上、人に従うのは得意ではないだろう。

実際、雫以外の人間には敬意を払うこともない。

俺達は雫の友人として好意的に見られているだけで、

万が一雫の敵であったのなら、こんな関係ではいられなかっただろう。

そもそもあの男は人の上に立てる様な才覚を持っている筈だ。

すべて読んだから分かる。

『柘榴』出身だからとはいえ、雫の下に就くに相応しい能力も持っていて、

それを見るに、雫の下以外でも充分にやっていけると思う。

それでも雫の部下であることを望んだのには、

彼にしかない何かがあったのだろう。

「愛流は、やろうと思えばなんでも大抵出来る人間だったからな。

 やろうと思っても簡単には出来ないものをずっと探していたんだ」

「それが雫の部下ってことか?」

「俺の部下というよりかは、俺の家の傍系意外の家系の人間が俺に就くこと。

 それは限られた人物にしか許されない領域だから、だと思うよ」

「へぇ…雫の家って本当に厳しそうだね」

「俺は特別、お家の跡取りだからさ。

 その分才色兼備、文武両道…なんでも出来て初めて、認められるんだよ」

「面倒な家だな。

 俺なら家出してるぜ、絶対」

「したことならあるよ、何回か」

『は?』

「それ本当?」

「勿論、面倒になって結局自分から帰ってるけど。

 今でも家を出られるのならそうしてる。愛流達が居るからもうしないけど」

少しずつ知っていく、雫の話。

それは俺達と雫の距離感を示している様だった。

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