第68話
正直に言うと、彼と関係を持つには理由がなかった。
それゆえ付かず離れずとはまた違った距離感でいようと決めた。
理由が生まれた今、少しだけ距離を詰めても構わないのだろうか?
『しぃくんはなんでも悩みすぎなんだよ。
たまには周囲の影響なんて考えずに自分の本能に従っても良いんだよ』
不意に、恭の言葉が思い出される。
あぁ、それで良いのか。
そう理解した。
距離を詰めてみようと、決めた。
たださぁ行動に移そうと決めた頃、
そうとは言っていられない状況になった。
◇◆◇◆◇◆
「コイツあげる」
巡はそう言って男を放り投げる。
その背後では雫が容赦なく別の男の顎を蹴り上げていて、
男の感じた痛みを想像して思わず顔が引き攣った。
「あ、起きた。なぁ、聞きたいことがあるんだけど、答えて」
「雫くん、多分顎痛すぎて口動かないんじゃないそれ」
「あ、そっか。じゃあ気絶したフリをてる奴同じ目に遭いたく無かったら
質問に答えてもらえないか?これ以上の傷はつけないって約束もする」
先程顎を蹴られた男は逃げようと呻く。
それをすかさず捕らえて後頭部から踏み潰すのは当然雫だ。
地面に相手の顔を押し付け、更なる苦痛を与えている辺り、
自分を襲撃した男を許すつもりは毛頭ないらしい。
それでも何も言わない『柘榴』の連中は寧ろ称賛したいほどだ。
「…へぇ、良い部下じゃん。まぁ、良いか。
言わないなら俺が全部吐いてやるよ。お前達が知らないことまで全部な」
男の後頭部を開放したかと思えば、その背中に腰を下ろし、彼は言った。
「お前達『柘榴』の企みも目的も全て、俺にはお見通しだからな」
そう言う彼は、やはり綺麗な無表情だった。
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