第63話

「そう…良かった」

『じゃあ、切るよ。俺はこの後も予定あるし。

 何より俺がお前らの話を聞くのは問題があるから』

「あ、うん。ばいばい…」

ツー、と通話終了の意味する音が鳴る。

「雫らしいな、今の話は」

「兄貴、俺は…」

「気にするな、お前は今まで通り生きていけば良い。

 もし俺がどうしようもない様なときが来たら、その時は雫を頼る」

雫が何を以て凌駕の兄の信頼を得ているのかは知らない。

それを知ることが出来る立場に居る人間は数少ないのだろう。

千咲都 愛流の言葉は忘れてもいいと思う。

そういう意味で彼はそう言ったのだろう。

「…じゃあ、聞きたい話は聞けたか?」

「聞けた」

「俺は生憎忙しいから、もう帰るな」

「…ん」

再び凌駕の兄は凌駕の頭を撫でて笑う。

「またな。いつかまた会える場所を作る。

 それまで待ってろ、良いな?」

「分かった」

漸く凌駕の微笑みが見れて、俺達は安堵の表情を見合わせた。


「あ、凌駕」

「?」

「最後にひとつ、耳寄りな情報がある」

「あ?」



「お前らの幼馴染のひとり『清南 恭(きよな きょう)』

 アイツ、今結婚してガキも居るぞ。会えるなら会っとけよ?」


カチリ、と歯車の音が鳴った気がした。

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