第59話

アイツはあまり自分のことを語る奴ではなかった。

それもらしさだと、俺は勝手に解釈していた。

気付けなかった。

語らなかったんじゃない、語れなかったんだと。

アイツが去った時、俺達に残されたのは一通の手紙。

そこにはアイツの苦悩と残酷な人生が綴られていた。

一番傍に居たのはおれたちのはずだったのに、気付けなかった。

それが悔しくて、苦しくて。

アイツを見つけ出したいと思う反面、

アイツに合わせる顔がないと、俺達はアイツを探そうとはしなかった。

「全部、思い込みが生んだ結果だった。だからもう、知ってるつもりは

 やめにしたい。凌駕、ついて行かせてくれ」

真っ直ぐ相手の瞳を見て話す斎は嫌いだ。

誰かこの瞳をした斎き拒み方、教えてくれよ……。

「…勝手にしろよ。そこまで意志が硬いんだ。

 どーせ、断ってもついてくるつもりだったんだろ?」



「…ここ?」

「随分人気のない場所だね」

「雫曰く俺と兄貴が会っている所を誰かに…特に両親に見られるのは

 色々と不味いらしい。例えば俺が家に戻されるとかなんとか」

「あぁ、成程…」

俺の説明を更に深堀りする気は無かったらしい。

雄大が周囲を見回して人を探す。

「…来た?」

巡は夜目が効く。

小さな声で呟いたその声に振り返ると、

そこにはいつの間に男がひとり立っていた。

「…よォ、随分と大所帯だな。

 確か俺の弟はひとりだったと思ったんだが、どれだ?」

紅く光った瞳に、俺は言葉を失った。

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