第58話

「知ってどうする?」

「…どうするかは、後で決める。

 今はただ、二度と訪れないであろうこのチャンス絶対を逃さない」

俺の家系の中で、雫がどんな存在なのかなんて知らない。

でも、アイツは確かに俺では出来ない事が出来る。

「…じゃあ、俺も行く」

「は?」

「さっき雫は来ても良いって言ってただろ」

斎の突然の言葉に俺が呆けていると、雄大も手を上げた。

「はいはい!僕も行こっと、巡はどうする?」

「…会うのは凌駕の兄貴なんでしょ?なら行ってもいいよ」

「じゃ決まりね、凌駕場所案内して〜?」

「は?勝手に決めんなよ」

いつの間にこいつらは着いてくる事を決めたんだと俺が睨むと、

反対に普段はあまり笑わない斎が笑って答えた。

「お前も分かってたことだろ。ここまで来て俺達がお前の未来に

 関わることを知らぬふりなんざしない」

「てか、俺らの前でその話したのが悪いんじゃん。

 着いて来てほしくないなら、徹底的にかくし通せよアホ凌駕」

「知らない内に身内が傷付くのはもう嫌だよ僕達。

 それが一番嫌なのは、凌駕でしょ?俺達だって同じなんだから」

一瞬反応が遅れた俺に、斎が続ける。

「俺達は今、雫と出会って変わり出している。もう二度と大切なものを

 失わない為に、過去に囚われたままはやめようと決めた」

「斎…」

アイツ…前副会長の立場に居た男。

彼も俺達の幼馴染のひとりだった。

アイツを失ってから、俺達はよくアイツのことを考えた。

そして気付いた。

俺達がアイツのことをあまり知らないことに。

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