第57話

体育祭が終了してやって来た月曜日。

今日は妙に凌駕がそわそわしていたと思った。

「凌駕、さっきから動きが喧しい」

「あ?知るかよ」

巡の指摘に対してそう返す凌駕。

「ねぇ、雫くんなにかあったのかな凌駕」

「なんで俺に聞く?本人に聞きなよ、回りくどい」

凌駕と巡が座るソファの真正面の2つの椅子にはそれぞれ雫と雄大が居る。

何があったのか知らないが、雄大も雫に心を許したらしい。

雫の方もいつの間にか雄大のことを名前呼びになっていて

不思議そうに見つめた巡の視線に雄大は昔の様な笑みを向けた。

それに安心した巡はいつもの様子に戻る。

「…雫」

「今日の約束なら心配ない。ただ、俺は傍につけないから…

 不安になるなら、巡達を連れて行っても構わない」

訳の分からない会話が続く中、雫は席を立つ。

「雫、俺は本当に兄貴に会えるのか?」

「会える。そうなる様に手配した。

 お前が捨てられた理由も、分かる筈だよ。そう決まってる」



◇◆◇◆◇◆


「凌駕」

「ンだよ、斎」

「さっきのは一体何の話だ」

俺は人の瞳を真っ直ぐ見て話す斎が嫌いだ。

その瞳には、何もかも見透かされている様な気がして、

どこか気分が悪く、居心地が悪かった。

「俺が親に捨てられた話はしたろ、その延長線だ。

 俺が捨てられた理由を知る為に、俺は雫に協力を頼んだ」

「…お兄さんと違って優秀じゃないから、とか言ってなかった?」

「それも理由の一つだ。だとすれば、ある矛盾が生まれる。

 両親は今、俺を取り戻そうと動いている。優秀でもない俺を

 今更必要とする理由はどこにあるってんだ。俺はそれを知りたい」

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