第53話

「――気をつけりゃ良いんでしょ」

「そうだけど…」

僅かに雫くんの瞳が揺れる。

「俺には関係ないよ。今まで通り邪魔が入れば蹴散らすだけ。

 『柘榴』に対してだってそういう対応しかしないつもりだけど、良いよね」

「構わないが、それで恨みを買うなら自分だけでなんとかしろ。

 霜楓の連中を巻き込むことだけは気をつけてくれ」

「分かってる、そんなヘマしない」

もう話に興味を失ってしまったのか、彼はまたスマホに視線が移る。

「お前の顔に傷が付くと、霜楓の女が五月蝿い。気をつけろ」

「…へぇ、むしろ女が寄り付かなくなる様にこの顔ぐちゃぐちゃにしようか」

「雫、それ絶対やめて。

 俺だって雫の顔綺麗で気に入ってるんだから」

「はいはい…」

「適当に流さないでよ」

「ちゃんと聞いてるって。傷はつけないから、安心しろ」

当たり前の様に話す雫くんと巡に、僕は最近思う。

――羨ましいな、って。

どうして、雫くんにできて、僕には出来ないんだろう。



「…は?」

「そういう反応が返ってくるって予想してた」

「逆に普通に返せる奴は気持ち悪い」

「それはそう」

どうしてか分からないから、いっそのこと本人にどうしたら良いかと

真っ向から聞いてみることにした。

巡が凌駕に連れて行かれて雫くんから離れた合間を狙って、

今度は僕が雫くんを捕まえた。

捕まった本人は、始めに腕を捻り上げてきた。

「だから、僕は巡とちゃんと兄弟になりたいんだよ。

 でも普通に話すことが出来ないから、どうして君には出来るのかなって」

分からないことをそのままにしておくことは好きじゃない。

自分が分からないことが自分の中に残っている感覚が嫌いだった。

だからどうしても理解したい。

そう説明すれば、彼はノータイムで僕の脳天を引っ叩いた。

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