第52話

部屋に入ると案の定、巡は苛ついていた。

そんな彼は雫くんの右腕にしがみついていて、いつもよりは内心穏やかだ。

しがみつかれてる雫くんはそんなことを気にも留めないで

左手でスマホをいじっていた。

「よくそれでいつも通りの行動取れるよね、雫くん」

「左手動けばどうとでもなるから良い」

「寛容だな…というか無関心なのか?」

「……さぁ、どっちの方が良いんだろう」

可能性としては後者の方が大きそうだ。

少しして雫くんが巡に声を掛けると普通に返答が帰ってきた為、

『柘榴』に関する話が始まった。


「『柘榴』の最近の目立った行動はひとつ、人探し。

 ただその人探しが結構手荒らしくて、ウチも迷惑を被っているらしい」

「人探しの内容は?」

「嘗て頻繁に『柘榴』に出入りしていた少女居た。元『柘榴』リーダーは

 その少女――通称・ミユを見つけ出したいと言っているんだってさ」

たったひとりの少女を見つけ出す為だけに、

グループ内の人間を総出で動かしている。

「…なんで女なんかにそんな執着してんだか。

 てかそこまで分かってて見つけれられてないの?雑魚じゃん」

「それは僕も概ね同意する」

「というか内容はこの際どうでも良いんじゃなかったか。

 問題は人探しの方法。そうだろ、雄大」

脱線しかけた話を丁寧に戻した斎。

この話を続けたい訳じゃないし、僕も話を戻す。

「ミユの容姿を知る人間は多くない。その為断片的な容姿の特徴から

 片っ端からそれらしい人を見つけては連れ込もうとしてる」

「非合理的過ぎるな、付き合ってられない」

「まぁそう言わずにさ、雫くん。君だって他人事ではいられないよ?」

「は?」

「今日もそうだった様に、雫くんは狙われるんじゃないかな。

 その容姿は実際女の子に見られなくもないと思う」

今日雫くんを襲ったあの男も、人探しが目的だったのだろう。

ウチでは特に雫くんと巡が狙われやすい筈だ。

どちらも中性的な容姿で華奢な体躯をしているから。

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