第49話

「この間、雫がこんな事を言った」

「なぁに、突然」

「お前と巡の関係がどれほど歪んでいても自分には関係ない。

 複雑な関係性を持つのはお前らだけじゃないから、対等に扱う」

「あぁ、言いそう。

 雫くんって良くも悪くも人に気遣いとかしなさそうだもんね」

斎が出してきたのは最近俺達の中で話題の不思議な不思議な雫くんの話。

「その代わり気遣いされると逆に嫌がりそうだな」

「分かる。

 そういうとこよく分からないよね、雫くんって」

僕らの目の前に突然現れたこの世の美しさを集めた様な男の子。

伊舞希さんの迫力にも負けず、自分の言いたい事ははっきり言って、

それでいて他人には文句を言わせない実力もある。

認めざるを得ない、そんな人間だった。

なに不自由なく生きてきたんだろうと思っていたけど、実際そうでもなくて

むしろ才能に振り回されて生きている様にも見えた。

「特殊なんだろ、アイツの家も」

「それで言うと僕らも斎も凌駕も含まれるけどね」

「ある意味ベクトルが違う様に思えるけどな、雫は」

「でも、それを一切気にしてないのがちょっと高評価だね」

「そういうステータスだけ見てくる様な連中は全部跳ね除けて育ったんだろ」

僕らには出来なかった、そんな自由なこと。

でも、その自由はきっと雫くんが欲しかったものじゃない。

そう分かる様になって来ているのも、彼に近付けた証拠かもしれない。

「『翡翠』行こっか」

「あぁ。最近『柘榴』の奴等も最近活動が活発化してるらしい。

 気を引き締めていかねぇと、あっという間に喰われるぞ」

「だね。特に巡と雫くんは気をつけて貰わないと」

「あ?」

「最近『柘榴』は探し人をしてるらしくって。

 仕入れた一部の情報から中性的な見た目をしてる子が狙われてるんだってさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る