第47話

父と母が離婚届にサインした翌日。

早朝の母がまだ起きてない時間帯に父は家を出ていった。

離婚届はちゃんと出して、証拠となる写真も送ると父は言っていた。

俺は最後に眠い目を擦って見送った。

『もう家族ではなくなってしまったけど、お父さんは巡のお父さんだ。

 なにかあればここに連絡しておいで』

そう言って父はメモを一枚渡してくれた。

なんだか母に見つかると捨てられそうだと思い、俺はそのメモを隠した。

『巡〜?何してるのこんな早い時間に』

『少し目が覚めて、手洗いに行ってたんだよ母さん』

『あら、そうなの?母さんまだ眠いわぁ』

『じゃあもう少し寝ようよ、俺と一緒に』

『ふふ、そうね』

もうすっかり眠気は覚めてしまったけど、寝起きの母は嫌いだから。

だからもう一度寝かせて、昨日のことは忘れてもらおう。

もう一度寝ようと促せば、頷いてくれると知っていた。


『……ねぇ、巡』

『なぁに?』

『巡は私を捨てたりしないわよね?』

『…しないよ?だって母さんだもん』

『そうだよねぇ、巡はいい子だものね。

 母さんを捨てたりなんてしないわよね、ずっと一緒よ』

『うん、おやすみ母さん』

思えばこの頃から、俺は女子が嫌いなのかもしれなかった。



「なにが、『ずっと一緒』だよ。

 結局捨てたのは、そっちのくせに……」

本当にそれをぶつけたい相手は、もう居ない。

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