第44話

「…笑えな〜い」

「笑い話だよ、何も知らないのならな」

「怖いって。雫っていくら秘密抱えてるの」

「…さぁ?

 俺が知ってる秘密でも両手じゃ足りないよ」

もう話す気がないのか、赤毛を揺らしながら扉へ向かっていく。

「あぁ、そうだ。君達岬 凌駕くんが岬家の養子だって知ってる?」

「知ってる。今聞いて何になる?」

「知ってるんだ。じゃあ、頭が悪くないなら分かるね」

何のことだ、と聞こうとしたその直後、彼は鋭い眼光で言い放った。



「岬 凌駕の本当の名前はね、『須崎 凌駕』っていうんだ」



「……雫くんの苗字って、なんだっけ」

「………えっと、」

「言うな。

 ……それだけは言うな」



もう知っているから、その答えを。


自分が養子だったと知った時の凌駕の心情も、


俺達は誰よりも知ってる。ずっと傍で感じ続けていた。


だからこれ以上残酷なことを考えさせないでくれ。


もう、失った時の気持ちは、知らなくていいから。

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