第43話

「じゃ、俺は帰る」

「またね、雫」

またもや鞄をぶん投げて先に部屋を出る雫。

そんな彼を赤毛は追わず、俺達を見た。

「……本当は今日、岬 凌駕くんに会いたかった。

 俺はさっきそう言ったと思うんだけど、覚えてる?」

「凌駕に?」

「知り合いに似てるとかなんとか…」

「それ半分本当だけど半分嘘なんだ。本当の理由は別にある」

「元々雫の迎えじゃなくてそっち目的だったってことか」

「うん。あっちは知らないだろうけどさ、少し雫様と関係があってさ」

含みのある微笑みに、思わず唾を飲み込んだ。

コレが大人の威厳か、という様な印象を与えられた。

「雫様は何か彼の頼みを聞いているらしい。

 それはきっと彼だからでしか無いと思う。俺はそれでいいと思うけど」

「けど?」

巡が首を傾げる。

「それが雫様の為になることだと思えない」

千咲都 愛流の行動指針は常に『雫のため』である。

初対面の俺達にすらそれを納得させる。

「…凌駕と雫の関係ってなんだ?」

「聞かない方がオススメするけど…聞きたい?」

反応をするつもりがない俺達を見て溜め息を吐かれた。

「仕方ないなぁ…」

「オススメしない割に教えてくれるんだ……」

「まぁ、別に雫様も怒らないと思うし」

「怒ったらどうするの?」

「怒れないんだよ、あの人は」

「は?」

「あの人には、『怒る』っていう感情がないから。

 怒りだけじゃない。感情そのものが備わってない人なんだ」

唐突に明かされた雫の秘密。

俺達は一瞬理解出来なかった。

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