第34話

「平気かなぁ、雫くん」

「なにが?」

雄大はそう口にする。

「だって去年の覚えてる?『好きな人』とか入ってたじゃん。

 もし雫くんがそれ当たったら『居ないんだけどどうすんの?』とか

 『こんな下らないお題出すのやめてくれない?』とか言いそうでしょ」

『……』

一応否定する気はあった。俺にも巡にも。

だが、可能性としては十分ありえる内容だったせいで思わず黙った。


「……一応、信じてあげない?」

「あんな秘密ばっかりな不思議ちゃんを?」

「……つっても、俺らもアイツに隠し事ばっかしてるけどな」

「この話やめない?」

「雄大が始めたんだけど…」

「借り物競走見ようか、雫くんが出るみたいだよ」


◇◆◇◆◇◆


それなりの速度でお題のある場所まで辿り着く。

白い箱に入った紙切れを1枚手に取る。

その中身を見た瞬間、破り捨ててやろうかと一考する。

チラリと横を見ると、人差し指でバツを作る巡が見える。

仕方ない、と諦めた。

手元の紙切れをくしゃりと包んでから、目標に向かって歩き出した。


◇◆◇◆◇◆


「こっち来る」

「何引いたんだろうな」

やって来る人に、視線をずらす。

彼は俺を一瞥すると、俺の頭に手を伸ばす。

「…いいか、別にコレで」

「は?」

「コイツ借りる」

離された手は、俺の右手に伸びる。

ぐいっと力強い細い腕に引っ張られ、俺は席を立たされる。

「本気で走る、付いてこい」

「横暴」

「なんとでも言え」

仕方ないな、と妥協して俺は走り出した。

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