第28話

『――アンタ誰?』

5つ年下の声とは思えなかった。

堂々としていて、とても聞き取りやすい声だった。

『この者は私の息子で、卒業後雫様の補佐を努めさせていただきます』

この家に来るまで聞かされていた、俺の将来。

やりたいこともなく、敷かれたレールを走るのが楽そうだと思ったから。

俺は年下の世話を承認した。

『名前は?』

『千咲都 愛流(ちさと める)です』

『愛流、か。俺のことは雫と呼ぶと良い。

 まぁ、卒業後からはよろしく』

初めて会った日の記憶はこれだけ。

自己紹介が終わってしまうと、俺はさっさと帰された。


今思うと横暴すぎたと思うが、後から彼の事情を聞くと納得した。

仕方がなかったのだ。

雫様には背負うものが大きすぎて、多すぎた。

それを一つ残らず背負おうとするのだから、

補佐するこちらの身にもなって欲しいと時々思う。

言ったところで「だからなんだ?」と返される気もするが。

「…まぁ、それでも俺はあの人について行くと決めたんだ。

 もう、彼の行動に文句は言わない」

決意すると、俺は主の居ない執務室を後にする。

「それにしても、あの人の弟君か。それに出逢うとは、雫様も哀れだ。

 あの人は、今でも雫様を想っているのかな。――ねぇ、須崎紅蓮くん」

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