妹サバイバル

「私に会いに来てくださるのは嬉しいですけどぉ。


授業はちゃんと受けなくちゃめっ、ですよ?」


なんて言いながら指先でちょんとおでこを突いてくる千鶴さん。


可愛い。


間違いなくこの世にある何よりも可愛い。


最上級に可愛いのっ!


あ、これフラレるやつだった、、


「はい、受けます!もう全力で受けちゃいます!」


「チョロ。」


なんてぼやきながら顔を顰めるリオ。


あなた本当に天使ですよね…?


「でもでも、もし体調が悪かったり怪我をした時はいつでも来てくださいねぇ。」


「あ、これ病気かもしれないわ、看病してもらわなきゃ…」


「はいはい、なんとかにつける薬は無いですから…。


行きますよ、悠太さん。」


「あぁ!ご無体な!」


と、そこで千鶴さんは一度俺に近づいて…って近い近い!


ほのかに香るフローラルな香り、掻き分けた髪の先に見える綺麗な項や、白衣の下に着ているシャツから覗く首筋と……いやいや……見過ぎたらダメだ……!でも見ちゃう……男の子だもんっ!


「キモっ。」


ゴミを見る目やめてくださいww


もはや天使の目じゃないからw


でも目の前の大天使、いや女神は優しく微笑む。


「学校以外でなら…いつでも待ってますからね?」


そして耳元でそう囁きかけてきた。


「ま、また来ます!」


なんとかそう返す。


でも内心はキャパオーバーである。


これまで千鶴さんの囁きボイスを聞いた事はあるにはある。


でもこんな至近距離でなんてある筈もなく。


あんなの反則だろう……。


顔の辺りが暑くなり、心臓も高鳴る。


「頑張ってくださいねぇ〜。」


照れた顔を見られたくなくて目を逸らすも、千鶴さんはさっきと変わらぬ様子で手を振る。


クソぅ……弄ばれてしまった……。


リオに引きずられながら保健室を後にする。


「何怒ってんだよ?」


不機嫌そうに引っ張ってくるリオに声をかけると、一層不機嫌そうに睨みつけてくる。


ひーん怖いよう…。


「もう恋愛はしたくないんでしたっけ?」


何処か吐き捨てるように言うリオ。


「その…なんて言うかさ、千鶴さんはそういうのじゃなくて…。」


「思いっきりデレデレしてましたけどね。」


やっぱりどこか不機嫌そうに言ってくる。


はぁはぁん?さてはぁ?


「何だ、妬いてんのか?案外可愛いとこあ……「は?」はいごめんなさい…。」


「真面目な話ですよ。


あんな人が傍に居たなら、最初からアタックの一つでもしたら良かったじゃないですか。」


「あー…いや、千鶴さんはさ、確かに凄い魅力的なんだよ。


でも最初は人気だって無かったし、配信を聴きにくる人の数も俺を含めて数人くらいでさ。


でもいつからか凄く人気が出始めて、俺なんかよりずっと応援してる人に囲まれて、気が付いたらどんどん手の届かない所に行ってしまったんだ。


元々俺は一ファンでしかないし、実際物理的にも結構な距離だったりして…大好きだけど絶対

手が届かない存在だって分かってるって言うか…。


なんだろうな。


アイドルみたいなもんなんだ、俺の中であの人は。」


「でも今は目の前にいるじゃないですか。」


「そ……そう、だけど。」


「そもそも本当に好きなら身の丈とか住んでる場所なんて気にせずに突っ走れば良いじゃないですか。」


「そう出来れば良かったんだけどな。


結局俺は怖いんだよ。


遠くに居ても、手が届かなくても良い。


ただ彼女と言う存在を失うのが。」


実際付き合えたら幸せだろう。


彼女の声を毎日すぐ傍で聞いて居られるなんて状況 、合法の大麻と言っていい。


でも実際本当に欲しいと思える様な物はいつだって手が届かない所にある。


そもそも手を伸ばす権利さえ与えられずに終わった神田旭のように、何処かで俺はそれを当たり前として受け入れてきた。


こうだったら良かったのに、なんて結局そんなの自己満足でしかない。


結局俺はそんな自己満足ばかり気にして、自分から状況を変える為の何かをしようとはしなかった。


「お前の言う通りだよ。


それが出来てたら多分こうはなってなかった。」


「そ、そんなに落ち込まないでくださいよ…。


別にそんな落ち込ませるつもりで言った訳では…。」


「悠にぃ!」


と、そこで急に背後から誰かが抱きついてくる。


「のわっ!?って、まさか、まりちゃん!?」


「悠にぃ〜会いたかったよ〜。」


そんな事を言いながら頬ずりして来るのは、松野茉里愛まつのまりあ


Uthtuberで数少ない俺を最推しと読んで推し続けてくれている女の子である。


身長は小柄でストレートの黒髪ヘアをセンターで分けている。


童顔も相成って、凄まじい妹力を放っている。


「悠…にい?」


そこで、ふと背後から底知れぬ冷気が伝わってくる。


恐る恐る振り向くと、そこには俺と茉里愛ちゃんの様子を冷めた目で見つめる日奈美の姿があった。


「ひ、ひーちゃん…?」


「お兄ちゃん、私と言う妹が居ながら他に妹がいたんだね?」


「あ、いや…これは…。」


「悠にぃは今まりが愛でてるんだから渡さないよ〜。」


俺を抱きしめる力を強める茉里愛。


てか、何がとは言わないけど当たってるから!


「お兄ちゃん、これ、浮気だよね?」


「え、浮気?」


思わず聞き返す。


「浮気……だよね?」


「はいっ!」


「弱っ…。」


リオが呆れ顔で言ってくる。


だって圧が凄いんだもの…。


「ちょっと、離れてよ!


お兄ちゃんは私の!お兄ちゃんなんだから!!」


「む〜悠にぃはまりの悠にぃだから〜!」


左に日奈美、右に茉里愛。


二人がそれぞれの腕にしがみつく形で俺を奪い合う。


え、これどう言う状況?


「ふん、私はお兄ちゃんと一つ屋根の下で暮らしてるし、 長年積み重ねた物が違うんだから。」


日奈美が一度自分の方に俺を引き寄せると、今度は茉里愛が俺を自分の方に引き寄せる。


「こう言うのは量より質だと思うよ〜。


まりは悠にぃの事大好きだし、その想いは誰にも負けないもん。」


あれれー?こう言うのどっかで見た事あるぞー?


でも嘘みたいだろ?二人、妹なんだぜ。


「は?私は時間だけで質が悪いって言いたいわけ!?」


また日奈美が引き寄せる。


と言うか二人とも……なんか力強くないっ!?痛い痛い!


「事実だもん〜。」


そのまま言い合いと引き合いは続く。


「言っとくけど!私のお兄ちゃんへの想いは質だってぽっと出のあなたになんか負けてないんだから!」


「あのー…俺の事で争うのは…と言うか普通に痛……。」


「「お兄ちゃん(悠にい)は黙ってて!」」


「はいっ!」


「私は一体何を見せられてるんですか…。」


頭を抱えるリオ。


そう思うだろう、俺もそう思う。


怖いから言わないけどw

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