第7話 初めてのデート
彩は昨日の今日、職場で武人と顔を合わすのがひどいプレッシャーになっていた。
でもいつものように、そう何年も付き合っているのを隠してきたようにどうにか1日を過ごすことができた。
きっと、これは翔太のおかげだと思っている。昨日のことを思い出しては心が和んでいた。
翔太とは、会社帰りに一緒に食事をする約束をしていた。仕事の合間に、チョコチョコとメールを交わす。そんな、学生のようなことが嬉しかった。
◆◆◇◇◇
職場から少し距離をとって、翔太と待ち合わせをした。
(今までそんな些細なことを、いつも気にかけていた自分が嫌だった。これからは、会社の前でも堂々と会うことができる)
武井田駅の銅像の前での待ち合わせ場所は、仕事帰りのたくさんの人々が出入り口から流される通り道にもなっている。
それでも待ち合わせにそこを使う人は、パラパラとした人数だった。
駅から出ると、銅像がある場所からは300mも離れていない。
その中で、自分が覚えている限りのデータをかき集め翔太を探していた。
考えてみれば、彼とはお見合いの日に1度だけしか会っていない。
しかも、翔太は椅子に座っていた。
そんなことを考えながら、銅像に近づいていく。と、1人の若者が手を振っていた。
あっ、翔太? 私も手を振り返す。
「久し振り、彩さん」
(この間、着ていた白のワンピースだ。よく似合っている。昨日、急に泣かれた時はびっくりしたな。本当は、傍にいて見守りたかった。しかしそんな不安定な気持ちでも、仕事をこなせるなんて‥‥『内面を見てあげてね』孝子おばちゃんが言ってたっけ。すごい人だよなあ)
「本当に久しぶり」
(普段着は、ジーパンにTシャツなのね。武人は、いつもブランドもので身を包んでいたっけ。嫌だわ。私ったら何を比べているのよ)
「今日、僕の顔覚えていてくれてたか自信がなかったんだ」照れたように笑う。
「手を振ってくれなかったら、きっと分からなかったわよ」笑い返す。
「僕の方は、初対面で思い切りつねられた相手は忘れられなかったよ」
「悪かったわね。誰が悪いのよ」思い出して、ムッとする。
「僕‥です」
「うふふ。よろしい」
◆◆◇◇◇
食事処ー堀ガ峰では、お互い注文をすませて食事がくるのを待っていた。
和食処で畳の部屋は、高い仕切りで隣と仕切られている。
「久し振りだなあ。こんなところで食うの。いつも、ウーバー○ー○か、コンビニで何か買っていたから」目の前のお茶を飲みながら言う。その後に電子タバコを加える。
「私は、ほとんど自炊よ。お金貯めなきゃって思っていたから‥あっ」
「もと彼との結婚資金ってか」目の前に座っている翔太が私の目をみつめている。
「そうよ。もとよ。もと」むきになって、言っていた。
「昨日、僕に話してくれるっていったこと覚えている?」
「えっ、何のことだっけっていうか、それはもう大丈夫よ。もう、よくなったの」そう、もう悩むまでもない。
「何、それ?ちっともわからない。自分はいいかもしれないけど。僕は話を訊きたい。そして、どうよくなったのかも」翔太の顔は、真顔だった。
(眉毛が濃くて頑固そうだなあ。目は一重で大きくもなく小さくもない。鼻もちょうどいいくらいの高さで、唇は分厚くて‥‥こうして、関われるのはうれしいけれど少し面倒かな)
「ちょっと、聞いてる?」
「聞いてない。疲れたから食事したら帰るわ」
「なんだよ。それ」
丁度、食事を持って来た店員が入ってくる。
アツアツの湯気が出ている鳥鍋だ。それからは、二人ともお互いに何もいわず黙々と食べていた。
食べ終わって、彼が送っていくというのも聞かず一人で帰ってきた。
(あーあ、何で翔太だといつもこうなるんだろう。武人とは私が仕事も教えていた先輩だったから、いつもしっかりしていなきゃあって。だからこんな口喧嘩みたいなことは一度もなかったのに‥‥)
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