第40話

「んっ……あれ……龍、ちゃん?」





ピクリと反応した百合は眠たげな声をあげながら、龍之介を見上げる。ふわると香る甘い匂いが煩わしいと感じた龍之介は眉をひそめた。





「おい、どけよ。邪魔くせえな」


「ん~、やだ……」


「やだじゃねえ。さっさと……って、近寄んなって言ってんだろ!」


「おはよ~龍ちゃん。チュ〜」





甘えるような声色で百合がキスをせがんだ瞬間、ミラー越しに水瀬と視線が合った。龍之介は苛立ったようにグイグイ迫る百合から顔を逸らしながら舌打ちをすると、前の座席を勢いよく蹴った。


そして、百合の顔に至近距離にまで近付く。相変わらず端正な顔立ちだったが、表情は今にも殴りかかりそうな程のものだった。


それでも尚、怯む様子を見せない百合はキョトンとした様子で龍之介を見つめる。そして数秒の間を置いて龍之介は小声で呟いた。





「人前でするんじゃねえ」


「何照れてんのよ〜。さっきはいっぱいしたじゃない〜」





近距離の所為でやけに甘い香りが鼻孔をくすぐり龍之介は更に苛立ちを覚える。こんな女と寝てしまったことに対する自分への怒りと後悔。

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