第39話

水瀬は組の中でも極めて慎重派であり、組に悪影響をもたらす恐れのある人間は迅速に行動を起こし排除する。優秀であるが故、なかなかに冷酷だ。


小野田も然り、周りが常に冷静沈着で優秀な奴等の集まりだ。龍之介が信頼できる仲間として高く評価しているのもまた自分がヤクザの若頭であるが所以だ。若頭である以上、生温い手段は許されないため、改めて龍之介は気を引き締めた。


その為にはまず、この女に舐められてはいけない。


いつまでもベッタリと引っ付く女に対して不快そうに体を引き離そうとする龍之介。しかし、百合の口元を見て思わず動きを止める。





——髪食ってやがる……。





「それにしても龍が女を囲うなんて、らしくねえな。どういう風の吹きまわしなんだよ」





そんな中、黙って窓の外を見続けていた小野田がこの日初めて、微笑を浮かべながら口を開いた。





——らしくない?そんなもん。





龍之介は、百合の口元へ手を伸ばした。





「——俺が聞きてえよ」





柔らかな唇にそっと触れ、壊れ物を扱うように繊細で綺麗な黒髪を抜き取った。

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