第9話

「し、紫藤さん。お疲れ様です!」


「ああ。あんたは確か、」





三人の内、二人が中央の男の背後に付いていた。右側のクールな男が何か小さく耳打ちすると、思いだしたように口を開いた。





「大原、だったな。店に輩が入ったらしいじゃねえか」


「あー、はい。先週のことなんですけど……」





自分の存在を認識すらしようとしない紫藤と呼ばれる男の第一印象は、





“可愛くない”だったーー。





いかなる人物か品定めを始めるが無造作にセットされている綺麗な黒髪と繊細かつ美しい容姿だと窺える男はとてもその筋の人間には見えなかった。


歳は20代後半と見受けるが、取り巻きの男達もやたら若いのが少し気になる。いくら顔が良くても財力のない男には興味など毛頭ない。


しかし、庶民じゃ手の届きにくい良質なスーツにコート。高級な革靴が一番に目を引いたがチラリと覗かせた有名ブランドの腕時計を確認するや否や、百合はカクテルを片手に徐に席を立った。

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