第8話

好奇心に満ち溢れた視線に堪え兼ねた紳悟は目線を逸らした。しかし、逃さないと言わんばかりにグイグイと質問攻めに合ってしまい、大きな溜め息を吐き出しながら観念したように重い口を開く。





「言ったら即行帰るんだよ?いいね?……今から、ヤクザが来る」


「ヤクザ?へ〜、どうして?てか、どこの組?」


「いやいや。そんな呑気なこと言ってる場合じゃないから!もうすぐ近くまで来てるんだよ!教えたんだから早く帰って!」





ヤクザと聞いて少し身構えたが、動揺することもなく百合は一瞬考える素振りをすると、困り顔の紳悟に反して面白そうに笑ってみせた。





「ねえねえ、紳悟ちゃん。そのヤクザってお金持ち?」


「そりゃあ、もう……ってまさか美夜ちゃん?!ダメだよ!絶対ダメだからね?」


「ご紹介どうもありがとう」





ウインクをしながら、全く席を立つ気配のない百合に紳悟の顔が瞬く間に青ざめていく。





「美夜ちゃん、本当にダメだってば!意地悪じゃなくて、俺は心配して——」





紳悟の言葉を遮ったのは、扉が開かれた音。

その瞬間、紳悟は深々と頭を下げた。

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