第2話

赤信号で停止した車内から見渡す街は、夜中にもかかわらず、沢山の人で溢れている。己の存在を主張するために、ここ最大の歓楽街へ夢を見にくるのだ。しかし、百合はネオンの街に酔ったりはしない。





それが私の在り方だから。





「お客さん、着きましたよ〜。一人みたいだけど大丈夫かい?気をつけなよ〜」


「あら、おじ様。ご心配ありがとうございます。今度、お時間あればお店へいらしてくださいね」


「ははッ。昔なら、こんな若くて別嬪なお姉ちゃんに誘われたら真っ先に足を運んでいたよ。でもね、奥さんが待ってるから、ごめんよ〜」


「いえ。私の方こそ無神経でしたわ。ごめんなさい。お仕事頑張ってくださいね」





誰も彼もみんな同じだ。馬鹿馬鹿しい。





代金を支払い、車から降りた百合は、街灯を頼りにより深い路地裏へと姿を消した。


百合が向かう先は、歓楽街から少し外れた場所に佇む隠れ家のcafe&bar——『Distiny』だ。


まあ、近くのクラブ通いの人達が流れてくる割合も多いため、隠れ家とはいえないかもしれないけれど……。シンプルな外観にピンク色の照明が控えめに点灯しているのが、ややお気に入りだった。


ふと、夜空を仰ぎ見た百合は光り輝く星を眺める。





「——綺麗」





そう白い吐息と共に呟くと、二月の寒さがドッと押し寄せてきた為、慌てて扉を開けた。

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