第16話 【遊園地】




 それから数日後。俺は有名なテーマパークの前に来ていた。

 集まった人数は十数人。こういった集まりに珍しく参加した俺に、無駄に女子たちが群がってる。

 マジウザい。今すぐ帰りたい。


「おい、圭吾。顔怖いぞ」

「……うっせぇ」

「そんな顔すんなって。ほら、デジカメ」

「……ああ」

「カメラ貸すんだから、ちゃんと撮れよ! ほれ、撮って撮って!」

「俺、人は撮る気しねーから」


 俺に向かってピースしてきた宏太を無視して、俺は入り口の写真を何枚か撮った。

 こんなもんかな。さすがに出入り口だから人は大量に写っちゃうけど、これは仕方ない。


「なぁ宏太、圭吾のヤツどうしちゃったんだよ?」

「さぁー? なんか写真にでも目覚めたのかな」


 後ろでなんかヒソヒソと俺の話されてるけど、これも無視だ。

 そんなもの気にしてらんない。俺は写真撮ってくるって約束しちまったんだから。


 それからみんなして園内に入った。

 ジェットコースター、メリーゴーランド。色んなアトラクションを次々に撮っていく。結構な枚数撮ったな。帰ってから厳選してしないとダメだよな。

 ああ、そうだ。観覧車の中からも撮りたいな。

 どうすっかな。集団行動とかめんどいし、勝手に行くか。てゆうか、さっきから俺だけ何にも乗ってないし。夢中になって写真ばかり撮ってる。


 俺、結構写真撮るの好きかもしれないな。これだけ撮ってると、アングルとかちょっと拘りたくなる。人に見せること前提に撮ってるからな。

 遊園地知らない呉羽に、楽しさとかそういうの伝わればいい。そう思いながら、一枚一枚撮ってる。上手く撮れたらスゲー嬉しいし、気に入らないと悔しくて撮り直したくなる。

 俺、結構凝り性なのかな。後ろであれ乗ろうこれ乗ろうってうるさくしてるけど完全に無視して単独行動。

 多分俺、このまま満足したら帰るかもしれないな。

 だってこれで帰りに飯食っていこうぜみたいな流れになっても面倒だし、行きたくないし。さっさと帰って写真厳選して呉羽に送りたいし、アイツの反応気になるし。


「おい、圭吾!」

「ぬおっ! っ、んだよ!」


 思いっきり後ろから体当たりされ、俺は半ギレで宏太の頭をぶん殴った。

 今、結構いいアングル決まってたのに邪魔しやがって。


「っ、ってええ!! 何だよ、せっかくみんなで来たのに! 一人で行動しやがって!」

「行くとは言ったけど、集団行動するとは言ってない」

「ぐぬぬ……最後に観覧車乗ろうって言ってるけど、お前は!?」

「……ああ、じゃあ乗る」


 俺の返答が意外だったのか、宏太は目をパチパチさせた。

 お前の期待を裏切るようで申し訳ないけど、俺は一人で乗るぞ。誰とペア組んで乗るかとか騒いでるけど、俺はそんなものに全く構うことなくさっさと観覧車に乗り込んだ。


 観覧車の中から外の風景を撮っていく。

 まだ陽は結構高い方だな。どうせなら夕陽とか撮りたかったけど、仕方ないか。このまま一人で陽が沈むまで待つとか絶対に嫌だし。


「お。ジェットコースター上から撮ったら面白いかな」


 ずっと写真を撮り続ける。

 ファインダーに写る世界。アイツの知らない世界。

 俺が当たり前に見てる世界を、アイツは知らない。どうしてそんな生活をしてるのかは知らないけど、知らないって結構キツイことだと思う。

 無知は叩かれるし。無垢って言えば聞こえがいいけど、それが通用するのはガキだけ。

 アイツもいつまでもガキな訳じゃないし、大人になるにはどうとか言ってるし。だったら、俺が知ってることを教えてやるのも悪くないだろ。


「……って思うのは図々しいか?」


 なんかちょっと恥ずかしくなったかも。

 そんな俺、出来た人間じゃないし。


「まぁいいか」


 気にしてたら、今の関係なんか続けられない。

 俺は結構この関係を気に入ってるんだ。今のところ止める気はないんだ。だったら、気にしない。

 気にしなくていい。


 一足先に観覧車から下りた俺は、宏太に先に帰るとだけメール送って出入り口の方へ向かった。

 歩きながら撮った写真を確認していると、控えめな声で話しかけられた。


「すみません、ちょっといいですか?」

「はい?」


 俺に声掛けてきたのは品の良さそうな女性だった。その隣には小学生くらいの女の子。親子で来たんだろうか。

 俺にカメラを差出し、撮ってもらえないかと頼んできた。

 普段の俺なら完全に無視していたかもしれない。でも、今の俺は少し気分が良かった。


「良いですよ。じゃあ、そこに並んでもらえますか」


 ちゃんと笑えてるか微妙だけど、俺なりに愛想笑いしてカメラを構えた。

 お母さんの腕に女の子はベッタリ甘えて、良い笑顔を浮かべてる。うん、我ながら良いアングルだ。


「いきますよ。はい、チーズ」


 お決まりの台詞を言ってシャッターを切る。

 優しい笑顔を浮かべる母親と、満面の笑みの女の子。良い瞬間を切り取れたような、そんな気分だ。


「ありがとうございます」

「いえ、それじゃあ」

「お兄ちゃん、ありがとう」

「おう、じゃあな」


 小さな手を振る女の子に、俺も手を振って園内を出た。

 ああいう風に人を撮るのは悪くないな。なんか、呉羽とメールしてるときの俺みたいだった。メールしてるうちに性格変わったのか?

 いや、それはないな。もうそうだったら友人を置いて勝手に帰ったりしないだろうし。


 さて、どの写真を送ろうかな。



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