第15話 「かなしい」



 人間界って本当に凄いんだなぁ。

 けーごから遊園地って場所のこと教えてもらった。今度、そこに行くから写真撮って送ってくれるって。


 その遊園地って、人間なら当たり前に知ってることだよね。知らないって言った私に、ちゃんと説明してくれたけーごは優しい。変に思ってもおかしくないのに。

 疑われなかったかな、大丈夫かな。

 でも、うれしいな。話を聞いてるだけでも楽しそうだったし、今から凄くワクワクしてる。昨日は色々考えて泣いちゃってたのに、私は単純だ。


「ふふ、うふふっ」


 顔がニコニコしたまま治らないや。どうしよう。顔がこのままだったら。

 でも、ずっと笑顔のままだったら幸せだよね。私、幸せなのかな。

 けーごのおかげだよね。どうやったら、このままの関係を続けられるのかな。私が大人になっても、続けられるかな。けーごは、飽きずに私に構ってくれるのかな。

 けーごにはけーごの生活がある。

 人間は私たち鬼と違って家族で生活する。結婚をして、子供を生して、一緒に生活する。

 いつか、けーごもそうなる。そうなったら、きっと私は邪魔になっちゃうよね。

 私も、未来のことは分からない。私自身がどうなるか分からないんだもん。


 でも、今くらいは良いよね。今だけ、未来のこと忘れても。

 だって、今が幸せなんだもん。それでいいよね。


「このままで、いいよね……」


 変わりたくない。幸せのままでいたいよ。

 やっぱり、私はワガママになっちゃったんだ。欲が生まれちゃったんだ。これは、大人になるのに必要なことなのかな。それとも、捨てなきゃいけないものなのかな。

 わかんないな。


 大人に必要なもの、そうでないもの。それが分からない。イメージも出来ない。

 私にとって大人のイメージは苓祁兄だけ。苓祁兄を見てても、よく分かんない。苓祁兄は顔見せに来ても、ちょっとからかっていくだけだし。

 からかうのが大人?

 いや、これは苓祁兄だけだ。多分。だってけーごはそんなことしないもん。

 苓祁兄は頼りになるけど、ちょっと性格悪いと思う。とは言っても、私が今頼りに出来るのは苓祁兄だけなんだよね。私たちは鬼だから、交流は少ないけど。


「……苓祁兄、今度はいつ来るかな」


 聞きたいこと、いっぱいあるんだけどな。


「……」


 私は自分の頭に生えた角に触れた。

 私が鬼である証。これを隠せるようになるには、私が力を制御できなきゃダメ。


「……っ」


 私は木の幹に手を当てて、少しだけ力を込めて見た。

 ほんの少し。少しだけ、軽く触れる程度。


 だけど木はメキメキ言って、触れた場所がボロボロになって抉れた。

 ダメだ。まだ、ダメなんだ。私は空気を切るように木をペシッと叩くと、そのまま木は大きな音を立てて折れて倒れた。軽く振っただけなのに。払っただけなのに。

 これが、鬼の力。


 ダメ。

 ダメなんだ。

 私はきっと、ここから出られない。

 人の世界に混ざれない。


 仕方ないの。

 だって、鬼なんだもん。


 悲しいな。

 悲しいなぁ。



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