第9話 「かんがえる」
「わぁ!」
けーごから送られてきた写真。人間界の夕陽を写した写真だ。
綺麗。私が撮った写真よりもずっと本物みたいに綺麗に映ってる。人間の使うけーたいと、私の拾ったけーたいで何か違うんだろう?
「……綺麗な夕陽」
人間の世界の夕陽も、里で見る夕陽と変わらない。空を茜色に染める、優しい赤。
里と違うのは周りに見える建物。見たことのないものが沢山建っている。こういうのが人間界にはいっぱいあるのか。
「凄いなぁ」
何もない里とは大違い。
私も人間界に行けるようになったら、こういうものを沢山見れるのかな。こういうところで暮らせるのかな。
なんか想像できないや。里は確かに何もないけど、それに不便さを感じたことはない。単に私が何も知らないからそう思うんだろうけど。
でも、この里を出なきゃいけない理由ってないんだよね。義務って訳じゃないんだもの。
里を出ても人間とは深く関われない。友達になることも恋人や家族になることも出来ない。触れ合うことが出来ない。
いや、力の制御ができれば多少の接触は可能だって苓祁兄が言ってたけども。それでも、仲良しにはなれない。直接会ったら、今みたいに圭吾と仲良くは出来ないんだ。
だったら、このままでもいいような気がしてきた。
だって仲良くできないなら、そんなの今以上に寂しい。今までは人間界に行ってみたいなって思ってたこともあった。でも、けーごと知り合ってから少し変わった。
今、鬼がどれくらいいるのか全然知らないし、みんながどうやって暮らしているのかは分からない。
苓祁兄は一回人間界に行ってみれば分かるって言ってたけど、どうなんだろう。
私は逆に、寂しくなっちゃうんじゃないのかな。
だって、ここでは一人なのが当たり前だけど、人間界に行ったら大勢の中で独りになる。それは、凄く悲しい。
「……会いたいのに、会いたくないって……変だよね」
私、おかしいのかな。
けーごと会うことが出来ないのは初めから分かってたこと。それなのに、何だか胸が痛い。会いたくないって思ってしまう自分が少し嫌。孤独になるくらいなら、このまま一人でいたい。
結果、どっちも一人ぼっちなのに。
意味わかんない。けーごに色んな言葉を教わって、色んなことを知った。
そのせいなのかな。色んなこと考えるようになったのは。
これは、良いことなのかな。悪いことなのかな。
「……わかんない」
何も分からない。私は、この狭い世界しか知らないんだもん。
知らない世界のことを考えたって答えが出ないことくらい分かってる。それでも、こうして一人でいると頭の中がグチャグチャして分からないことを考えさせられる。
おかしい。私、変になっちゃったのかな。
「わかんないよぉ……けーご……」
どうしよう。涙、出てきた。
どうしたらいいのか分かんなくて、何も考えが纏まらなくて、寂しくて。
ギュッて、けーたいを握りしめた。
もうすぐ、陽が沈む。
今日は少し空が曇ってるから、星は見えないかもしれない。
私はけーごから送られてきた写真を見る。
綺麗な夕陽。私の為に撮ってくれた、夕陽。
「……同じ夕陽なのに、景色がこんなに違うんだね」
住む世界が違うんだ。
どうしたって、どう足掻いたって。
おかしいな。
こんな風に考えたことなかったのに。色んなことを知るって、こういうことなのかな。
思い知らされるのかな。赤鬼みたいに、友達を失くすのかな。
たった一人の友達を。
初めての、友達を。
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