第10話 【空っぽ】




「んあー」


 今日は急に休んだ奴が出たせいでバイト終わるのが遅くなった。

 時間はもう深夜。さすがにもうガキは寝てるよな。

 一応、メールだけ送っておくか。いや、それで起こしたらマズイか。

 どうするべきだ。てゆうか、ガキへのメールに何でこんなに悩まなきゃいけないんだよ。


「……やめておくか」


 一応、良い人演じてる訳だし。明日の朝に送ればいいだろ。

 俺は駅に向かい、家路へと着いた。


―――


――



 翌朝。てゆうか、目を覚ましたらもう昼過ぎだった。

 ヤベーな、完全に遅刻じゃんか。


「うわ、宏太から電話きてるし」


 呉羽からメールは来てない。

 そういえばバイト終わったら俺から送るって言ったっけ。てことは、アイツは俺が送るまで待ってるのか?


「……とりあえず、先に宏太に連絡しておくか」


 今日はもう休む。

 宏太にメッセージでそれを伝えると、直ぐに既読が付いて返事がきた。

 明日は来いよって一言と、そのあとに合コン行こうっていういつもの流れ。俺はそのまま既読スルーして、呉羽にメールを送った。


『昨日はメール送れなくてごめんね。バイト終わるのが遅くなっちゃって』


 とりあえずこんなんで良いだろ。まずは飯だ。腹減った。

 つか、夜充電しておくの忘れてたみたいだな。充電の残量がもうほぼない。動画付けっぱなしにしてたせいだな。仕方なく俺はスマホを充電器に差して、そのままコンビニに行った。


 大体、20分くらいか。

 飯買って帰ると、スマホのランプが点滅してた。画面を付けると、メールが受信されてる。確認するまでもなく、それは呉羽からのメール。

 俺は早速そのメールを開いた。


『そうなんだ。よかった、なにかあったかなって心配した』


 心配かけたか。なんか悪いことしたな。

 なんか、これが宏太とか他の知り合いだったらこんなの気にしなくて済むけど、呉羽に対しては物凄く罪悪感を感じてしまう。

 ガキに心配させるとか、あまりしたくはないよな。


『ゴメンね。もしかしてずっと待ってた?』

『うん。待ってた。でも、よかった。圭吾のめーる、きた』


 なんか、ガキの楽しみにされてるみたいだな。懐かれた、的な感じか?

 仕方ない。今日はもう出掛ける用事もないし、一日付き合ってやろう。暇潰しにはなるからな。


『今日は学校もバイトもないから、ずっと呉羽とメール出来るよ』

『ほんとう! うれしい! ずっと、めーる!! うれしい!』


 あーあ、そんなに喜んじゃって。なんか、少し恥ずかしくなるな。てゆうか照れる。

 俺なんかと話して何が楽しいんだか。


『呉羽は昨日、何してた?』

『昨日。写真、とってた』

『また何か撮ったんだ。この前の写真もすごくキレイだったよ』

『圭吾のと、私の、写真がちがう。圭吾の本物みたいなのに、私のは少しちがう』

『それは画質、がしつの問題だね』

『がしつ?』

『そう。画素数、がそすうっていうのがあって、それが高いか低いかで写りが変わるんだよ』

『そうなんだ。私の、がそすう、低い?』

『そういうことだね。俺のは最近買ったものだからそれなりに良いんだと思う』


 まぁ確かに呉羽の写真は画質が少し悪いな。

 あれか。まだガラケーしか持たせてもらってないとか。あとはあれ。なんだっけ、ジュニアケータイみたいなの?

 

『圭吾のは、良いけーたい?』

『最新機種、さいしんきしゅだからね』

『さいしん……あたらしい?』

『そう。一番新しいの』

『いいな。あたらしいの。自分でお買いもの、いいな』


 呉羽って本当に何歳くらいなんだ?

 まだ一人で買い物とかしたことないんだろうか。それとも、やっぱり病弱な子なのか。

 まぁそこは踏み込まないでおこう。人それぞれ触れてほしくない事情があるだろ。俺だって素を隠してるし。


『何か買いたいものでもあるの?』

『買いたいもの、わからない。でも、お買いものはしてみたい』


 その辺は女の子らしいって感じか。

 ショッピングに時間をかける女とかよくいるもんな。昔の彼女にそんな女がいたけど、マジでウザかった。面倒になって先に帰ったら次の日には別れようって話になったっけ。


『洋服とか見たり?』

『私、おなじ服しか持ってない』

『そうなんだ? 女の子だったら可愛い服とか欲しがりそうだけど』

『買ってみたい』


 親が買ってくれないの、って打とうと思ったけどやめた。

 そういうプライベートに深く関わるような質問はなるべくしたくない。なんか呉羽って訳ありっぽい感じがするし。

 とにかく、普通の女の子っぽさはない。だから深く突っ込んだ内容は聞きたくないっていうか、そういうの言わせるのはどうかなって思う訳です。はい。


『俺も新しい服買いたいな。でも金ないからしばらくがまんかな』

『はたらいてる、言ってた?』

『ほとんど家賃とか食費消えちゃうからね。自分の手元に残るのは少しだよ』


 今月も結構キツいんだよな。

 まぁいざとなったら宏太に奢らせるからいいけど。


『たいへん。はたらく、たいへん』

『そうだね。社会に出たらもっと大変、たいへんかな』

『どうして?』

『バイトじゃなくて、ちゃんと正社員、せいしゃいんになって働く方がもっと大変になるからだよ』

『せいしゃいん?』

『そう。いつか呉羽も大人になったら分かるよ』


 てゆうか俺、ちゃんと就職するのかな。

 まだ何も考えてないし、将来のビジョンも何もない。なんか、こうやって呉羽と話してると何もない自分が少し情けなくなるな。

 少しは考えるべきか?

 でも今更俺に何が出来る。こんな俺に、何が出来るっていうんだ。


「……改めて俺って駄目人間だよなぁ」


 空っぽ。

 何もないんだ、俺には。

 適当に毎日を過ごしていたツケが今になって回ってきたな。



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