第8話 【写真】
最近、呉羽から写メ付きのメールがよく送られてくるようになった。
新しいおもちゃを手にした子供みたいに、毎日毎日飽きもせず。
とりあえず、呉羽が外に出られない病弱少女って考えは消えた。だって送られてくる写真は外の風景ばかりだから。
まぁ、もしかしたら親とかに撮ってきてもらった写真を気に入ってて、それを俺に見せてくれてるのかもしれないけど。
本当に呉羽はどんな子なんだ。色々と疑問に思うところは多々ある。
でも、正直言ってそんなものはどうでもいいと思ってる俺もいる。
今、俺は呉羽とのメールを素直に楽しんでる。毎日彼女からのメールが来るのを待ってる。たった数日メールを送り合っているだけなのに。
この俺がガキとのメールを楽しんでるとか、きっと知り合いに話しても信じられないだろう。
でも事実だ。なんていうか、俺自身もガキに戻ったような感覚を味わえる。
それに呉羽に色々と教えてやるのも結構面白い。アイツは何でも直ぐに吸収する。中々物覚えが良い。
だからこっちがイラつくこともないし、話してて楽しい。本当に、楽しいって言葉しか出ない。
誰かと接してこんな風に思うなんて初めてだ。
「けーいーごー」
「うおっ!?」
講義が終わった途端、後ろから誰かが背中にぶつかってきた。
まぁこんなことしてくる奴は一人しかいない。
「なんだよ、宏太」
「なんだって、なんだよ? つれないなぁ、我が友よー」
「ウザい」
「冷たいなー。そんなこと言うのは、最近いいことがあったからか? ん?」
何だ、いつにも増してウザいな。顔が思いきりニヤけてやがる。
ムカつく。殴りたい、この笑顔。
「……マジでウゼェ」
「そんな邪険にするなってー!」
「お前に構ってるほどヒマじゃない」
「その態度……やっぱりお前、彼女出来たのか!!」
「はぁ?」
なんでそうなった。俺がそんなものに興味がないことくらい、お前もよく知ってるだろう。
基本的に俺は来る者拒まず去る者追わず。適当に付き合って、さっさと別れてばかりだ。最近はそれすら面倒になって、誰かと付き合うとかは全くない。
なんで俺が女のご機嫌取らなきゃいけないんだよ。超絶面倒くさい。
「なんでそうなるんだよ」
「だってお前、最近携帯ばかり見てるし! おまけに表情が全然違う!」
そんなに顔に出てたのか?
確かに呉羽とメールしてるときは気が緩んでるとは思っているけど。
「別にそんなんじゃねーよ。女と付き合うとかめんどい。時間の無駄」
「えーじゃあマジで女じゃないのか? 違うのか?」
「ち、が、う」
「なんだよー! てっきりお前に彼女が出来たんだと思ったのに! ぐあー負けたー!!」
「……お前」
「あ、いや、違うんだ。お前に彼女が出来たんだと思ってな、そのお祝いに何かしたいなって思って資金を調達しようかなって思って……」
コイツ、俺に彼女が出来たかどうか賭けてやがったのか。残念ながら負けたみたいだけどな。ざまぁみろ。
大体、呉羽はまだガキだし、顔も知らない。メールでしか知らない相手と付き合うとか有り得ないだろ。
そもそも、ガキに手を出すほど飢えてねーよ。
「とにかく、俺に女なんかできちゃいねーよ」
「本当かよ。普段は携帯なんか全然見ないくせに」
「しつこいな」
「だってそうだろ? 圭吾、ライン送っても既読無視ばっかりするし」
お前がくだらないことばかり送ってくるからだろ。
遊び行こう、合コンしよう、彼女欲しいとか。本気でどうでもいい。
「んじゃ、俺はもう帰る」
「バイトー?」
「ああ」
「上がり何時? どっか行こうぜー明日休みじゃんか」
「イヤだ」
「なんで!?」
「なんで休みの日にまでお前の顔見なきゃいけないんだよ」
「彼女とデートとか言うのか!?」
「お前な……俺の話聞いてたのかよ」
俺はどっか行こうと五月蠅く言ってくる宏太を無視して、教室を出た。
いちいち構ってられるかよ。宏太に付き合うと確実にオールになる。おまけに人集めまくって居酒屋やらカラオケやらで大騒ぎするからスゲー疲れるんだよな。
俺は騒がしいのは嫌いだ。小数人で夜中まで飲み明かすのは嫌いじゃないけど。
「……お」
校舎を出ると、丁度夕暮れ時だった。ビルの合間に沈む夕陽が街並みを赤く染めていて、呉羽から送ってもらった写真を思い出させる。
俺はスマホのカメラで夕陽を撮った。
こんな風に風景を撮るなんて初めてのことかもしれない。
『呉羽から送ってもらってばかりだから、俺も夕陽を撮ってみたよ。気に入ってもらえたら嬉しいな。それじゃあ、今からバイトだから。終わったらまたメールするね』
写真を添付して、呉羽にメールを送信した。
本当に俺らしくない文章だな。ちょっと慣れてきたけど。
「さて、と」
今日はいつもよりバイトへ向かう足取りが軽い気がする。
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