第7話 「さみしい」
「ひーま。ひまひまー」
けーごは学校。苓祁兄は今日は顔を見せに来てない。
時間を持て余した私は、木の上で太陽の光を浴びながら足をブラブラさせてた。
今まではこんな風に感じることなかったのに、何でだろう。何もない時間が退屈で仕方ない。
こうして陽の光を浴びてるだけで十分だった。雲の流れる様子を見てるだけで時間があっという間に流れていった。夜だって星の動きを見てるだけで朝になる。
なのに、今はそれだけじゃ物足りない。けーごのめーるがないと、寂しい。
教えてもらった、この気持ち。寂しいって気持ち。こんなに胸の奥がざわざわするの初めてだ。でも何でかな、嫌な感じではない。けーごからのめーるを待ってる時間は好き。
まだかなってワクワクするし、今日はどんなお話しできるのかなって考える時間も大好き。
でも今はちょっとだけモヤッとしちゃう。
「……一人って、こんなに寂しいんだ」
知らなかった。だって、それが当たり前だったから。今までは一人でいることに何の疑問も抱かなかった。
でも今は違う。めーるしてるだけで、一人なのに一人じゃない感じがするんだ。まるで同じ場所でお話してるような気持ちになれる。
だから、こんな風に寂しいって感情を知っちゃったんだ。
「そうだ。苓祁兄にけーたいの、えっと……かめ、かめら? 亀? なんだっけ、しゃしんとかいうやつの使い方教えてもらってたんだっけ」
川辺に綺麗なお花が咲いてるんだ。とても可愛いからあれを撮って、けーごに見せてあげよう。
小さくて可愛いお花。私のお気に入りなんだ。
「あった。えーっと、どれだっけ。こう、かな? あ、できた。で、こうやって……」
パシャっと音が鳴って、けーたいにお花の写真が保存された。
めーるに写真を付ける方法もちゃんと教わった。てんぷ、だったかな。
「よし、できた!」
私はけーたいを空に翳し、ポチッと送信ボタンを押した。
そしてけーたいの画面に、送信しましたって言葉が表示される。
ちゃんと届いてる。
苓祁兄には届かなかったのに、こうやってけーごには届けられてる。苓祁兄にめーる送れなかったとき、少し不安になった。もしかしたら、もうけーごとめーる出来ないんじゃないかって。
でも、大丈夫。ちゃんと送れてる。
私の言葉は、届いてる。
でも、もしも。
このけーたいが誰にも繋がらなくなったら、どうしよう。
元々、これは変なけーたいなんだ。何が起きてもおかしくない。
イヤだな。私、そうなったらまた一人になっちゃうんだ。当たり前のことなのに、それが鬼として当然のことなのに。
なんで。
イヤなんだろう。
「……けーごぉ」
一人って、寂しいんだね。
初めて知ったよ。
「……はぁ」
とぼとぼと歩きながら、私はもう一度けーたいのカメラを使った。
もっといっぱい撮りたい。私自身のことは伝えられないけど、私が好きだと思うもの、伝えたい。
「それにしても、これはどうやってけーたいの中に入ってるんだろう。かめらって変なの」
こんな小さな板にどうしたら目の前のものが映るんだろう。
けーごはこのけーたいに付いてる丸いやつで映してるとか言ってたけど、全然分からない。なんでこいつはそんなことが出来ちゃうんだ。
そもそもけーたいも凄いやつだ。私がここから大きな声を出したってけーごに声が届くことはないのに、このけーたいは私の言葉を遠く離れた人に届けることが出来る。
人間は凄いな。どんな術を使ったんだろう。
けーごなら分かるかな。でも、それを教えてもらって私に理解できるかな。たぶん無理かもしれない。
でも、けーごが見てるもの、知ってるもの、私ももっと知りたいな。
「……ふふっ」
寂しいけど、けーごのこと考えると少し楽しいな。
私は知らないことばかりだし、里から出られない。だけど、けーごと話してるときは里から抜け出したような気持ちになるんだよ。
ふわって、知らない世界にいるみたいだ。知らない世界のことを知るのは凄く楽しい。
こんなに何かを知りたいと思ったこと、ない。
本当はこんな風に思ったらいけないんだと思う。いや、絶対に駄目だ。
だけど、どうしても考えることを止められない。
私は悪い子になったのかな。
苓祁兄、きっと怒るだろうな。
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