第4話 【変なメール】
「ふあ、あ……」
「どうした、圭吾。眠そうじゃん」
「……まぁな」
夏が終わり、まだ少し残暑の残る9月の中頃。袖を捲りながら、俺は何度目かの欠伸をしていた。
俺の名前は二堂圭吾。地元の大学に通う20歳。昨日きた変なメールの相手をしてたせいでちょっと寝不足だ。
昨日の夜、それは突然届いた。
メッセージアプリが主流でメールなんて使う奴の方が珍しい中、たった一言だけ書かれたそれが送られてきた訳だけど。
どう見ても怪しい。てゆうか、「とどいてますか」って何だよ。イタズラか? アドレスも何かメチャクチャだし、こういうのは無視した方がいい。
そう思ったんだけど、この日の俺は少しいつもと違っていた。正直言って暇だったんだ。しょっちゅう喧嘩ばっかりして、毎日を適当に過ごしている俺は時間を持て余していた。
イタズラならイタズラで返せばいい。とりあえず最初は相手に合わせてやろう。
「と、ど、い、て、まーす……っと。これでいいか」
一言だけ書いて返信する。これでまた返事が来たら、どう応えようか。
送ってきた奴は誰だ? こんな一言だけ送り付けてくるようなふざけた奴、どうせ俺みたいに暇してる馬鹿しかいないんだろうけど。
数分して、返事が返ってきた。
随分と返事に迷っていたみたいだな。さて、何て書いてある。
『だれですか』
何だ、コイツ。自分から送ってきておいて誰とか。しかもまた平仮名だけ。
どうするか。もしかしたら俺のこと知ってて、からかってるのか。俺に喧嘩吹っかけてくる奴は少なくないしな。
とりあえず、素でいくのもつまらないし。
「……これでいいか。うーわ、俺キモッ」
いつもの俺だったら絶対にこんなこと送らねぇような文章。これがもしただの出逢い厨とかでも、この近辺のヤツだったら俺の名前でビビる。
俺のこと知らなくても、イタズラや出逢い厨ならあとで痛い目に遭わせてやれる。まぁ出会い目的の男なら相手が男だって分かった時点で、このままスルーするだろうな。
『俺は圭吾。二堂圭吾、大学生だよ。君は?』
さて、お前はどう出る。
このまま引き下がられると退屈しのぎにもならない。
「……おせえ」
2、3分経ったけど、まだ返事がない。さっきの返事もそうだったけど、どんだけ悩んでんだよ。パパッと書いて送れよ。
なんかイライラしてくるな。やっぱりスルーするかな。
そう思っていると、スマホの画面に受信されたメールが表示された。
『かんじよめないわたしくれは』
何だ、コイツ。めっちゃ読みにくいんだけど。句読点も使えないのかよ。
ガキアピールなのか、それとも素なのか。ガキが相手だったらイタズラとかでもなさそうだけど。
ヤベーな。面倒なのに手を出した可能性あるぞ。まぁいい。返事しちまったし、ちょっとくらいは構ってやろう。
何度も言うが俺は暇なんだ。
『けいご、だよ。にどう けいご。漢字がわからないってことは、くれはは小さい子なのかな。おれでよければ教えるよ。ケータイならよそくへんかんもあるし』
『ありがとううれしい』
『まずは俺の名前、なまえ、だよ。けいごって打ってば予測変換でも出ると思うよ。圭吾って、さがしてごらん? けいごって打ったら画面の下の方に色々出てくるだろ』
どうだ、これ。俺、メッチャ良い人っぽくね?
わざわざ相手に合わせて平仮名で書いてやってるとか、親切にも程がある。それにしても、くれはって珍しい名前だな。偽名か?
『圭吾圭吾あってる』
『うん、あってるよ。くれはは?』
『呉羽あったこれ呉羽』
呉羽か。普通に読める名前だな。
まぁ、今どき馬鹿みたいに変な名前多いから珍しいってこともないか。ああいうキラキラネームに比べたら十分可愛い方だろう。
『呉羽。かわいい名前だね。でも、どうして俺のメアドを?』
『めあどわかんない』
なんだ、それ。適当にアドレス入れたら送れましたってことか?
今のところ害はなさそうな感じするし、大丈夫かな。ぶっちゃけガキの相手はそれほど嫌いじゃない。昔は近所のガキたちと遊んでいた時期もあった。まぁ中学の頃までだけど。
たまにはこういうのも悪くないか。もしイタズラならきっちり相手してやるし。
『これからはメル友だね』
『める』
『メルとも。メールのやり取りするともだち。友達、かな』
『ともだち圭吾ともだちうれしいともだちはじめて』
『そうなんだ。いいのかな、はじめての友達が俺で』
『うれしい圭吾がいい』
『そういってもらえて嬉しいよ、ありがと』
初めての友達って、マジかよ。あれか。人見知りとかそういうのか。クラスで一人はいる、どのグループにも入れない奴だな。
それに漢字もろくに分からないってことは、かなりガキだ。今は小学校でも普通にスマホ持ってる時代だし。
でも、こんなに文字打つの下手なやつ今時いるのか。記号も打てないとか変だよな。むしろガキの方が使いこなすの早いんじゃないのか。
まぁいいや。これが誰かのイタズラだったら、少し感心する。ここまで徹底して設定守ってるとか、大したものだ。
それを言うなら、俺も結構キャラ作ってるけどな。こんな言葉使い、普段は絶対にしないし。俺って意外と演技派なのかもな。あくまで文章の上でだけど。
残念ながら俺の見た目は好青年のカケラもない。喧嘩しまくりだし、ブリーチで髪は痛みまくってるし、目付きも悪い。昔から親がもう少し愛想良くしたらどうなんだって口うるさく言ってたくらいだ。
「……まぁいい。当面の暇潰しは出来たな」
これで暫くは退屈しなくて済みそうだ。喧嘩ばかりの毎日に飽きてきたところだし、こういうのもたまには新鮮でいいだろう。心のゆとりも大事、なんてな。
そんなこと、俺の言えた言葉じゃねーか。
それから数時間。呉羽が眠たいと言うまで、俺達はメールを続けた。おかげで寝不足だけど、気分は悪くない。柄にもなく朝からメールを送ってしまったくらいだ。
少しだけこのやり取りを楽しんでいる俺に、正直驚きは隠せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます