第2話 「めるとも」




 たった一言、「とどいてます」と書かれためーる。

 私の送っためーるに、返してくれた言葉。

 嬉しい。これは誰かに私の思いがちゃんと届いてた証なんだ。


「お、お返事しないと!」


 私は慌てて、返事を送る。

 何て返せばいいだろう。いや、まずは苓祁兄に相談した方がいいのかな。でも、そんなことしてけーたい取り上げられても嫌だな。

 

 だけど、相手のことが誰か知りたい。

 もっと、知らないことを知りたい。

 相手はどんな人だろう。

 男の人なのか、女の人なのか。何歳くらいで、何をしてる人なんだろう。


 知りたい。

 初めて苓祁兄以の人と繋がりを持つことが出来た。少しだけ、ほんの少しだけでいいから、この繋がりを絶たないでほしい。


『だれですか』


 この一言だけ打って、同じようにめーるを送信する。

 いきなりめーる送ったのは私の方なのに、一方的に誰だって聞くのは失礼だったかな。

 でも、他にどう返事をすれば分からない。


 とりあえずめーるはまた送れた。

 それにしても、おかしなけーたいだ。

 だってこのけーたいは壊れてるって苓祁兄が言ってた。人間界からのめーるが里に届くなんて有り得ないはず。

 でも、この里でこんなけーたいなんか持ってる鬼なんかいないはず。

 けーたい持てるのは苓祁兄みたいな大人の鬼だけだし、こういうのを普段から使うような鬼は人間界で暮らしてるだろう。


 一分も経たずに返事が返ってきた。

 このブルブル震えるの、ちょっと心臓に悪いな。ビックリする。

 私はさっきと同じようにめーるを開き、返事を読んだ。


『俺は圭吾。二堂圭吾、大学生だよ。君は?』


 なんて書いてあるんだろう。

 多分名前が書いてあるんだと思うけど、難しい漢字はまだ分からない。

 苓祁兄にもらった絵本は平仮名とちょこっと漢字があるくらい。こんな沢山の漢字は書かれてなかった。


「は、に……? 大きいって字に……きみ?」


 これだけじゃ分からない。

 苓祁兄に教えてもらう? 返事はすぐにしたいけど、苓祁兄がいつ里に戻るか分からない。

 しょうがない。相手にちゃんと聞かなきゃ。

 じゃないと名前が呼べない。


『かんじよめないわたしはくれは』


 これで大丈夫かな。

 暫く待つと、返事がすぐに来た。

 やっぱり人間はめーる打つの慣れてるんだな。スゴい、なんかカッコいい。


『けいご、だよ。にどう けいご。漢字がわからないってことは、くれはは小さい子なのかな。おれでよければ教えるよ。ケータイならよそくへんかんもあるし』


 けいご。

 苓祁兄みたいに俺って言ってるから、きっと男の人。

 私にも分かるように平仮名で書いてくれてる。

 優しい人だ。


『ありがとううれしい』

『まずは俺の名前、なまえ、だよ。けいごって打ってば予測変換でも出ると思うよ。圭吾って、さがしてごらん? けいごって打ったら画面の下の方に色々出てくるだろ』


 言われた通りに、けいごって打ってみる。

 あ、本当だ。下に漢字がいっぱいある。これが、よそくへんかん。

 敬語、警護。

 圭吾、あった。あった、これだ。


『圭吾圭吾あってる』

『うん、あってるよ。くれはは?』

『呉羽あったこれ呉羽』

『呉羽。かわいい名前だね。でも、どうして俺のメアドを?』

『めあどわかんない』

『そっか。まぁ迷惑メールっぽくもないし、いいか』

『まためーる送ってもいい』

『うん、いいよ。メールなんて送るのも久しぶりだし、よろしくね』

『うんありがとう圭吾』

『これからはメル友だね』

『める』

『メルとも。メールのやり取りするともだち。友達、かな』

『ともだち圭吾ともだち友達うれしいともだちはじめて』

『そうなんだ。いいのかな、はじめての友達が俺で』

『うれしい圭吾がいい』

『そういってもらえて嬉しいよ、ありがと』


 平仮名ばかりで返事も遅い私のめーるに、ちゃんと答えてくれてる。

 けーごは、優しい人。

 こんなにも心が躍るようなこと初めてだ。まだ手が震えてる。

 なんか、うれしすぎて泣きそう。鬼だってことは言えないし、知られたらめーるは送れない。

 隠し事って苦手だけど、こうやって普通にお話しするくらいなら良いよね。

 私、もっと外の世界のこと知りたい。教えてほしい。

 何もないこの里じゃ知りえないことを、もっと。もっと。


「ふふっ、めるとも。めるとも! けーごと友達!」


 初めての友達。

 初めてのメル友。

 初めての経験ばっかりで胸の中が嬉しいって気持ちでいっぱいだ。けーごからのめーるを待つ時間もワクワクして、時間があっという間に過ぎていく。

 こんなの初めて。全部が初めて。

 スゴイな、けーごは。

 こんなにたくさんのドキドキをくれるなんて。

 人間って、みんなこうなのかな。


 私はけーごからのめーるを最初から読み返す。

 ほんの一時間くらいのやり取り。だけど、今までに感じたことのない充実感がある。

 自然と顔がにやけちゃう。笑顔が止まらない。

 頬を触ると、ほんの少し熱い気がする。

 こんなことも初めてだ。


「あ、めーる!」


 ブルブルとけーたいが震えて、けーごからのめーるが届く。

 これからも、こんな時間が増えたらいいな。

 もっと、ずっと、こうやって新しいことを知っていきたい。

 けーごと、もっと仲良くなりたいな。


「えへへ……」


 楽しいな。

 嬉しいな。





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