第57話

凛さんがニヤニヤした顔付きで私を見ていると、雅久さんがソファーからおもむろに立ち上がり私に手を差し出す。






「俺の部屋教えた後に椿の部屋案内するね。行くよ」


「あ、はい!!」






雅久さんの手に自分の手を重ねると、ぐいっと引き寄せられるようにして立ち上がった。






「お前ら、もう行くのか?酒は?まだ、夜中の1時だぞ」






え?も、もうそんな時間なの?






「椿んとこ寝かせたらな。……行こ?」






しかして折角の皆との楽しい時間を私が妨げちゃってる?!






雅久さんに手を引かれ三階への階段を上り廊下を歩くが、雅久さんののんびりとした足取りになんだか落ち着かなくなり声を掛ける。






「雅久さん、ごめんなさい……皆さんとお酒飲みたいですよね。急ぎましょう?」






私は繋いでいる手に少し力を込め、先を急がせるように雅久さんの瞳を見つめる。すると足を止めた雅久さんは少しだけ笑みを浮かべて繋がれている私の親指辺りを撫でた。






「酒は飲みたいけど、別に急ぐ必要はないよ」


「で、でも」


「……ふっ、そんなに俺に気を回さなくていいよ。酒ならいつでもゆっくり飲めるから」


「……雅久さんはとても優しいですね」


「それはどうだろう?……まぁ、椿には優しくしたいからさ……いい子でいないとダメだよ?」






綺麗な笑顔は深みが増した気がした。

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