第40話

突如、頬に柔らかな唇の感触を感じて思考が停止してしまった。


しかし、すぐにハッと我に返った私は慌てて抵抗しようと試みる。だが、両腕を強い力で拘束されているため逃げることが出来ない……。






強弱をつけながら甘噛みをされ、堪らず雅久さんの名前を小さく呟く。






「……っ。が、くさん」


「……ん?」






雅久さんのくぐもった声が吐息と交ざり私の頬は僅かに湿りを帯びる。


気を紛らわすために目を瞑ってみても余計に神経がそこに集中してしまう。まるで自分の体内に取り込むかの如く優しく私を食らう。


と、止めないと……。






「が、くさん……っ食べないで、ください」






すると雅久さんは、私の頬を軽く吸うとゆっくりと名残惜しそうに離れた。






「ご馳走さま。予想以上に美味しかったから完食しそうだった。……傷つけたら……もっと甘くなるかな?」


「……なりませんよ!雅久さんひどいです!強制しないって、言ったじゃないですか……」


「あのね、椿お嬢さん。人は煽られると強制したくなるもんなんだよ?覚えときな」


「全く理解できませんよ……私の心の準備が出来てからにしてください!」


「じゃあ、もう一回」


「え?」


「ふっ、冗談だよ。可愛いから今日は許してあげる」


「きょ、今日はって……」


「さーて、雲行きが怪しくなってきた。今度こそ帰るよ」






上手く遮られてしまった。

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