甘い花にも毒
第30話
「体冷えてるね。取り敢えずここを出よう」
私を包んでいた暖かさが消えたが、すぐに少し冷たい大きな手がぎゅっと私の手を温めてくれた。手から全身へと再び熱が回ってゆく。
ずっと抱き締め合っていたからか寒さなんて忘れてしまっていたのだ。
「は、はい!どこに行くんですか?」
「俺んち」
雅久さんのお家?!
私、本当の本当に雅久さんと……。
どうしよう……すっごく嬉しいけど、まだ心の準備が……。
そこで、ふと私は重大な事を思い出しスタスタと歩みを進める雅久さんに慌てて尋ねた。
「雅久さん!!私のような見ず知らずの女が突然現れて大丈夫なんですか?ご両親にどう説明すれば……」
「椿と一緒で、親なんかいないよ」
「え……」
笑みを浮かべているが雅久さんを纏う雰囲気が一瞬にして真っ暗に染まった気がした。
私達を包む夜空よりも色濃く……。
「でも家族はいる。大丈夫、何も心配する事ないよ。椿はただ俺の側に居ればいい」
「……は、い」
冷たい瞳に少しだけ灯りが宿り、その色が少しでも長く続いてほしいと願いこれ以上は安易に踏み込まないと決めた。
でも、いつか……いつか、聞かせてほしい。
雅久さんが私の毒を抜いてくれたように私も雅久さんにそう出来たらいいなと思ったから。
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