第28話
「ん?どうしたの?……そんな顔で見つめられたら照れる」
え?……全然照れてるように見えない。
むしろ楽しんでるというか……。
背中に回されていた両腕のうち右腕を解かれると少し冷たい手の平が私の頬をユルりと撫でた。それでも私を抱きしめる左腕の力は緩まることはなかった。
「雅久さんの音を独り占めできるのが嬉しいなぁって思いまして……。でも、私はこんなに幸せでいいんでしょうか。私にはこんな素敵な時間似合わないですよ」
言葉とは裏腹にこの時を奪われたくないと強く願う……。
私の頬を撫でていた手が再び背中に周り、隙間なく雅久さんの体温に包み込まれた。
「言ったよね?椿はもう俺の物だよ。過去なんか俺にはどうでもいい。これからの椿の時間は俺が決める。俺は今の椿と時を刻むんだよ。ただそれだけ……。何も難しいことじゃないよ」
「……っ雅久さん……」
「全部忘れて俺だけ見てればいいんだよ、椿は」
今まで誰かに抱き締められた事も抱き締めた事もなかったからか、抱き締められている状況であるにも関わらず私の手はまだ行き場を定めていなかった。
とっくに二人の間に距離などないが、もっともっとと見えない距離を埋めるようにゆっくりと雅久さんの背中に自分の腕を絡める。
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