第7話 百倍返し
「おはよ〜」
「おっ彩ちゃん!おはよう!!いい天気だな!」
「あぁ。あまりにも良い天気過ぎて、登校中に道のど真ん中で寝るところだったわ」
「いや、歩きながら寝るなよ」
靴箱で大介と出会い、挨拶をする。
朝練終わりの大介とここで挨拶をし、教室まで一緒に行くのが俺の日常のルーティーンであった。
「そういや、昨日の宇宙の最果てまで見たか?滅茶苦茶神回だったよな!」
「ほーん…見てねぇや」
「見ろよ!ラインで放送時間送っただろ!」
他愛もない雑談をしながら、3階の教室に向かう。
自分たちのクラスである、2年A組の教室につくと、そこは大勢の人だかりで廊下が埋め尽くされていた。観察すると、どうやら別クラスの生徒たちも集まっているようだ。
「な、何だこりゃ?」
「誰か怒られてんのか…?」
「ん〜…どうする?散るまで待つか?」
「……早く寝たいわ」
「なら正面突破か」
すると、大介は180cmの巨体にサッカー部の体感を活かし押しのけていく。
俺はその背中についていくだけだ。
すぐにドアの前まで到着する。にしてもなんでこんなに…
「おはよう、彩人くん」
教室に入ると、俺の席で本を読んでいた七瀬が、こちらに向けて名前を呼び、挨拶をしてくる。
周囲の視線が俺に集中する。
「は?」
「あら、挨拶をするのはおかしいことかしら?」
「えーっと…七瀬…さん?ナニカゴヨウデショウカ??」
「なに?用がなければ会いに来てはいけないの?悲しいわ…私と貴方の仲はその程度だったのね…」
よよよ…とわざとらしく悲しむ彼女に、周りの困惑は更に大きくなる。
「あの七瀬さんと真城が…?」
「一体どういう関係なんだ…」
「七瀬さんは僕のだぞ…!!」
うーん…これ、まずくね?
彼女の人気は想像以上であった。
嫉妬とか、興味とか、色々な視線が俺の背中に突き刺さる。
ここからの展開は安易に想像がつく。
まず俺は彼女が帰ったあと、囲まれ話を聞かれるだろう。
どんな関係性かは話せない。別に特別なものでもないが、彼女には俺のあの写真が握られている。
そうやって口を開かない俺のことを周りは怪しむだろう。変な勘ぐりをされる可能性もある。
いや、そんな生ぬるい話じゃないかもな…
「…殺してやるコンクリートに埋めて殺してやる海に流して魚の餌にしてやる七瀬様の前で腹を捌いて殺してやる────」
一際異常な殺気を放つ少女が目に入る。いやもう呪詛だよ呪詛。
理由も聞かれず刺されそうだな…とりあえず、ここで誤解を解くというか、彼女が俺に会いに来たのは大したことではないと言うことにしなければ…
「…それで、本当に何のようだ」
「…?用なんてないわよ?ちょっと顔を見たかったから会いに来ただけよ」
そう言い含みのある微笑みを浮かべながらそうほざく七瀬。それで喜ぶのは恋人だけだわ!!
「いやいや、そんなわけ無いだろ?何かあるからわざわざ教室まで来たんじゃないのか?」
「…そうね。それじゃあ、昼食を一緒に食べましょう」
「昼飯?」
俺がそう聞くと、彼女はコクリと頷く。
「えぇ、いつもの場所で待ってるわ。それじゃ、またね」
彼女がそう言った瞬間、野次馬が凍りつく。
いつもの場所。つまり二人はいつもあっているということを理解したのである。
そんな周囲を置き去りに、彼女は悠々と去っていく。
「まだ、許してないから」
そう俺の隣を通るときに俺にだけ聞こえるようにそう囁く。一瞬見えた表情は、楽しそうな…いや、愉しそうな表情をしていた。
………………………………
……………
……
俺は、屋上で横になり、空を眺めていた。
「はぁ…どうすっかなぁ…」
あれから大騒動であった。
囲まれもみくちゃにされ色々大変だったが、大介のおかげで抜け出すことができ、それから授業が終わるまで屋上で過ごしている、というわけだ。
出席に関しては安心してほしい。授業はほとぼりが免除してもらった。
俺がいると授業ができなかったので仕方がない。
授業の内容は大介にスマホで録音してもらっているので、今の時間は暇な時間というわけだ。
やることがない。話をつけようにも彼女は授業中だろうし…
ぼーっと空を眺めながら、今後のことを考える。
図書室に行くのやめよっかなぁ…でも、行かなきゃやばいか…?
あの動画を晒されるのは非常にまずい。黒歴史どころの話ではない。もう学校には来れなくなる。
「はぁ………」
深い溜め息をはき、
…なんか、まるでアニメの主人公みたいだな。
ふと、自分の最近の状況を振り返る。
学校一の美少女である七瀬雫と他の者たちよりも親しい関係になり、そんな彼女のパンツを見たり恥ずかしい写真を見たり、放課後を過ごしたり昼飯を食べる約束をしたり、授業を免除されて屋上で黄昏れたり…
だが、そういう物語、俺はあまり好きじゃない。
主人公のもとにどんどんと現れる美少女達、巻き起こる修羅場、主人公に訪れる困難…面倒くさい事この上ないだろう。
ああいうのはフィクションだからこそ楽しめるのだ。
どうせ七瀬はこの復讐が終われば図書室にも来なくなるだろう。今は出会ったばかりで俺のことを何も知らない。つまり好奇心だ。だが、興味や目新しいものというものはすぐに飽きが来る。
今まで彼女が持ってきたものはだいたい2日か3日で見なくなった。七瀬雫とはそういうタイプの人間なのだ。
それに、彼女の気を引き続けることができるほど俺は面白い人間ではない。
なら、それまで耐えるだけだ。
いつか彼女が俺に飽き、図書室が静かになる日まで。
…でも、少しだけ楽しいと感じている自分もいる。
ただ放課後の誰もいない図書室で、ずっと寝ているだけの何もない日常よりは、今のほうが面白いのだ。だから…
「もうちょいだけ、付き合ってやるか…」
彼女が飽きるまで、付き合ってやろう。そう思いながら、俺の意識はゆっくりと闇の中に溶けていった。
………………………………
……………
……
チャイムの音で目が覚める。
「───んお?…寝てたか」
目を擦りながら起き上がる。
どうやら屋上の風の心地よさと、良い天気が掛け合わさり完全に意識が飛んでいたようだ。
「今は…もう5時か」
スマホの時計を確認すると、時間は5時14分と表示されていた。
空は綺麗な茜色で、カラスが遠くで鳴いている。
「今日は帰るか…」
今日は少し大変だった。図書室に行く気も起き…な……い………
「………あ」
そこで、俺は自分がとんでもないやらかしをしていた事に気がついたのであった。
学校一の美少女が、辛辣な言葉を投げ掛けてくるんですが 座頭海月 @aosuzu114514
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