第5話 変わった日常
……あれから1ヶ月が過ぎた。
え?飛ばしすぎだって?
いやぁ…ほんとに何もなかったんですよ。なかったことはないですが、ほんとに普通に少しだけ距離が近くなったような気がするくらいだ。
まあ、やることもなく図書室で寝ているだけだったので丁度いいのかも知れないな。
「ねぇ、彩斗くん。ジグソーパズルをやりましょう」
そう、七瀬は鞄に入っていた箱を取り出す。
こんな感じで最近は何故か興味のあるものを持ってくるようになった。
七瀬が出したのは、風景やキャラクター…ではなく、何も書かれていない真っ白なパズル。
「何だコレ…?」
「真っ白なパズルよ」
「いやそれは見てわかるけど…」
真っ白なパズルってなんだ?
「不思議でしょう?」
「不思議だな…」
どちらも何だコレと言うような顔で箱から袋を取り出しパズルを机に出す。
なんの柄も色もない真っ白なパズルを目の前に、俺達は困惑していた。
「昨日たまたま下校中に見つけたの。さ、始めましょう」
そうして七瀬はピースを探し出す。
「知ってるかしら?こういうのは端から埋めていくのよ」
「いや、流石にそれくらいはわかるけど…」
そう言い彼女は俺に一番角のピースを見せてくる。
顔のいい彼女のドヤ顔は、なんというか非常に鬱陶しいものがある。
「…あら?」
そうして一番手元に近い右端にピースをはめようとするが、何故か綺麗にはまらない。
よく見てみると、端は微妙にずれたり歪んだりしていた。つまり…
「お、ハマった」
彼女が置こうとした場所に、急いで探したピースをはめると、ピッタリとはまる。
「…ふっ」
「……!」
彩斗は七瀬の方を見てドヤ顔をする。その瞬間、七瀬は手に持ったピースの形を瞬時に判断し、左上の角にまるで風のような速度ではめ込み、俺に言う。
「勝負しましょう?ルールは簡単よ。多く置いたほうが勝者。負けた方は勝った方の言う事を一度だけなんでも聞く…どうかしら?」
「いいぜ。受けて立ってやる」
突然挑まれたその勝負を受け入れる。
そして…二人の壮絶なる戦いが幕を開けた。
………………………………
……………
……
七瀬は全体を眺め望むピースを選び取り、その形に合う場所に試行錯誤することなく完璧においていく。
一方俺は何度も置いては形の合うものを手当り次第さがしていた。
七瀬と俺のスマホのカウンターは現在140対130。ピース数は300枚のため、もう完成間際というところだ。
何とか食らいついているが、何か秘策でも無ければこのままゴールされてしまうだろう。
落ち着いた様子の七瀬と、慌ただしく食らいつく俺。どちらが有利かは一目瞭然であった。
「少しは落ち着いたらどうかしら?」
「………っ」
相手の煽りへ返事をする余裕もない。
ここは何か打開策を考えるべきだ。
とはいえあまり深い作戦は考えている余裕はない。ぱっと思いつく彼女の手を止める作戦…
(これしかない…!)
この方法は諸刃の剣。今後のことを考えるとあまり使いたい作戦ではないが…
「あぁ、そういえば七瀬。知ってるか?」
「何かしら?」
「最近、この学校のある少女の写真が男子の中で流出したんだよ。で、俺のところにも回ってきたんだ」
「ふーん、それで?」
「その写真がこれなんだが…」
「………は?」
七瀬は俺の見せたスマホの画面を見ると、驚愕の表情で硬直し、手に持っていたピースを落とす。
俺は、手を動かし続ける。
「ななななにゃにゃなんにゃんにゃんで!?しょの写真みゃ!!!?!」
そこには、可愛らしい猫耳カチューシャに、メイド服を着た七瀬雫が写っていた。
いつもの冷静でクールな表情が羞恥と驚愕で崩れる。
手は何もない空間を彷徨い、傍から見ても完全に動揺していることがわかった。
そんな彼女に俺は追撃する。
「そういえば、このゲームの勝者には敗者になんでも命令できるんだったよな。もし俺が勝てたら、何してもらおっかなぁ〜」
そして、その間にもピースをはめていき、そして追い抜く。
彼女がそのことに気づき、急いでピースを手に取るが、もう遅い。
現在、彼女のカウンターは143。残りのピースは6枚。
そして俺の手には一つのピース。
つまり、彼女がどれだけ慌ててピースをはめようと、もう俺の151枚には届かない。
彼女が299枚目のピースを置いたとき、彼女が最後の一枚が俺の手にあることに気づき、はっとした表情をしたことで完全に勝利を確信する。
そのまま最後のピースを置こうとしたとき、七瀬が突然パズルの板に手をかける。そして…
「駄目っ!!」
七瀬は勢い良くパズルをひっくり返した。
「ちょっ、冗だ」
「変態!すけべ!!色情魔!!!けだものぉ!!!!」
そういつになく声を荒げながら図書室から走り去る七瀬。
その背中を、俺は呆然と見送った。
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