第4話 ため息ばかり



「七瀬雫だって…?!」

「うおっ!?」


 突然机を叩いて立ち上がる大介に驚く。


「なんだよ突然…」

「いや、お前七瀬雫って、あの七瀬雫だぞ!?」

「アイドルかなんかなのか?」

「いや、まあある意味そうなんだけどさぁ…?はぁ…我が親友がここまで女子に興味がないとは思わなかったぞ?」


 大介は呆れたように言葉を続ける。


「七瀬雫。去年の文化祭の桜花高校女子最高に可愛いランキングで3分の1の投票を勝ち取った猛者だぞ?」

「何だその頭の悪そうなランキングは…」

「日本人の父とフィンランド人の母から生まれたハーフで日本人離れした白金の髪と鮮やかな黄緑色の瞳に、黄金比のような完璧なスタイルと真っ白な肌。毎回テストでは学年1、2位を争う頭の良さと、どんなスポーツでも大活躍の抜群の運動神経。耳を溶かすような美声とそのクールな表情。体操着姿や水着姿は裏で高値で取引されているくらいの…」

「あー、わかったわかった…わかったから落ち着けよ」

「落ち着いてられるかよ!?そんな七瀬さんの下着をお前は一週間も見続けむごぉっ!?!」

「おまっ…何口走ってんだ!」


 余計なことを言おうとした大介の口を塞ぎ小声で注意する。

 

 さっきのを聞いてわかったが、どうやら七瀬さんは随分と有名人のようだ。そんな彼女の下着を見たとなれば流石にまずいことになるのは俺でもわかる。

 

 周りを見渡す。放課後であったため人はまばらでどうやら聞こえてはいなさそうだ。


「ぷぁっ…ま!狙ってるなら気をつけろよ〜?ライバルは多いぜ?」

「はぁ…狙ってねーよ。むしろさっさと彼氏でも作ってもろて図書室に来なくなってくれるのが一番いい」

「かぁ〜!これだからお昼寝大好き精神老人野郎はよぉ?性欲もねぇのか!」


 そんな馬鹿のことを言う大介を無視して席を立つ。


「んじゃ、今日も行ってくるわ」

「ほーい。それじゃ俺も部活に行きますかねっと」


 そうして、二人は他愛も無い話をしながら教室から出るのであった。



………………………………


……………


……



「遅いわよ」

「えーっと…すみません?」


 図書室につくと、七瀬さんが話しかけてくる。


 大介と話が盛り上がりいつもより少し遅れたのだが…


(なんで怒ってるんだ?)


 用事でもあったのだろうか?そう思うが、その後は何も話しかけてこない。


 名前以外全てが謎である。


「……そ、そういえば七瀬さんって」

「七瀬でいいわよ。敬語も必要ないわ」

「は、はい…じゃなくて…あー…わかった」

「それで?何か聞きたいことでもあるの?」

「いやまあ山ほど気になることはあるけど…とりあえず一個だけ聞いてもいいか?」

「いいわよ」


 そう許可を貰ったので、一番気になることを聞く。


「なんでわざわざここに来るんだ?別にここじゃなくても本なら読めるだろ?俺だっているし七瀬も色々気になるんじゃ…」

「はぁぁぁぁ………」


 俺がそう聞くと、彼女は俺が今まで聞いてきた中で今までで一番深いため息をつく。


「──で気づか──のよ─結────束もし───…もう──ないわよ」


 小声でボソボソと何か恨み言のような言葉を吐いている。


 冷たい表情でこちらをギロッと睨むと、もう一度彼女は深いため息を吐いた。


「人が少ないから丁度いいのよ。何?迷惑かしら?」

「迷惑ってわけじゃないけど」


 迷惑である。それに七瀬が有名人だとわかった今、もしここに七瀬がいることがバレればファンの奴らが来ることは馬鹿でもわかる。


 できればここ以外で本を読んでほしいのだが…


(言えないよなぁ…)


 流石に迷惑だから出てってくれなんて言えるわけもない。


「はぁ…」

「知ってるかしら。ため息を頻繁につく人は、周りの人には鬱陶しいと思われてるらしいわよ」


 お前が言うな!そう言いたくなるがどうにか抑えて、溜まっていた図書委員の仕事をこなしていく。


 心の中では文句を言いながらも、なんだかんだ、彩斗はその生活を受け入れていたのであった。

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